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オリジナルSS「メイドトレイター」4話

遅くなりました、メイドトレイター4話です!今回は、今後レギュラーとなる隆一君が登場します。
なお、例により名産品にちなんだ合成メイド怪人が出ます。

前回までのあらすじ
キリサキのメモを頼りに、喫茶店赤リンゴを訪れた栃乙女アリス。その喫茶店のマスターは、キリサキの姉、ハナミだった。
アリスが事情を説明すると、ハナミは打倒フリーメイドンに協力してくれることになった。
こうしてアリスは、喫茶店赤リンゴならぬ、メイド喫茶赤リンゴで働くことになった。

アリスが働き始めて、メイド喫茶赤リンゴは生まれ変わっていた。
アリスは店内を徹底的に掃除し、今一つぱっとしなかった店内は、ブラインドを開けたがごとく明るくした。清潔感溢れる店内には可憐な花々を添え、小物や食器に至るまで女の子らしいかわいいデザインに変更された。
壁の補修も済ませ、看板も見やすくポップなデザインに変え、店の前にもプランターを置いて爽やかさで包んだ。
アリスは、自分が一人で店を変えてしまったことに驚いていた。
全ての原因は、改造メイドとしての本能だった。
メイドにとって、奉仕をさせていただくお屋敷は、まさに自身を表す鏡と言える。
アリスにとってのお屋敷は、今はこのメイド喫茶赤リンゴだ。
お屋敷における、メイドとしての仕事の基本。炊事洗濯掃除……それらをこなすことが改造メイドの生きる喜びである。
それらに付随して、より綺麗に見せること、こだわりを出すことなど、改造メイドはクォリティアップも惜しまない。
アリスが来るまでの店は、改造メイドにとっては徹底的に掃除したうえで、さらに綺麗に仕上げなければ気が済まないほど、有様だったのだ。
アリスが本能を呼び覚まされたのは、当然のことだった。
ハナミは店のあまりの変わりぶりに舌を巻いた。
変貌は喜びを得るものだった。
本来ハナミが目指していた店のイメージが、形となったのだから。
「これ、全部アリスがやったの?!」
「はいっ!もう、綺麗にしたくて、したくて、たまらなかったので!いかがでしょうか?」
ハナミは思わずアリスを抱きしめた。
「アハハハ!あんたって最高だよっ!これなら、お店をもっと盛り上げられそうだよ!」
喜びを享受しあう間もなく、ドアの鐘が客の来訪を告げる。
アリスはすぐに向き直り、姿勢を正した。
「い、いらっしゃいませぇ!」
入ってきたのは、サラリーマン風の男性だった。
ハナミがアリスの横腹を肘で小突くと、耳打ちをする。
「おいおい、メイド喫茶なら『おかえりなさいませ、ご主人様』だろ」
「えぇぇ、それ言わなきゃダメなんですかぁ」
「メイドのくせ嫌がるのかい」
「ボク、メイド喫茶のメイドはメイドとして認めてないんですよ。そもそもメイドってのは、ヴィクトリア時代に――――」
「だーもう、わかった、わかった!お客さんが呆然としてるから、早く接客してくれ!」
――――こうして、デコボコな二人ではあったが、うまく新しいスタートを切ることができたのだった。

何日かすると、だんだんとお客さんが増えてきた。
アリス目当ての男性客が多かったのは当然だが、ハナミの出す小料理の味もそこそこ良かったため、幅広い層に受けていた。
そして今日も、アリス目当ての客が店を訪れる。
「いらっしゃいませー!……あ、加山の奥さん!」
入ってきたのは、妙齢の女性と女性に手を繋がれていた男の子の二人。
奥さんは愛想良いが、男の子の方はむすっとしていた。
この二人、加山母子はアリスが働くようになってからの常連客だ。
母親の加山美和子はおっとりした雰囲気の主婦で、息子の加山隆一は幼いがやんちゃな子供である。
二人が最初に赤りんごを訪れたのは、買い物ついでに、休憩がてら寄っただけだった。
美和子の方は、店の雰囲気を第一印象から気に入っていた。
だが、リピーターになったのは、それだけが理由ではない。一緒に連れていた、隆一が特に店を気に入ったからだ。
……店と言うより、アリスの事が気になってしかたがないようだ。恋心に似た強烈な興味を、アリスに抱いていた。
本能か宿命か、男のサガには勝てずに目を引き、関心が向いてしまう。その感覚になれないせいか、アリスが気になることを、他人に言うのは羞恥に思うらしい。
周りには、丸わかりなのであるが。
隆一の仏頂面は、そういった恥から生じる照れを隠すためである。
隆一は顔を逸らしながらも、視線だけはちらちらとアリスに向けている。アリスと目が合うと、ますます照れてしまい顔を背けてしまう。
アリスは内心、わかりやすい子だな、と考えていた。
「こんにちは、アリスちゃん!すいませんねぇ、うちの子がまたアリスちゃんに会いたいって聞かないもんだから」
美和子の台詞を聞いた途端、隆一は繋いでいた手を放り投げるようにしてふりほどく。
「な、ば、ちげぇよっ!喉が渇いただけだっつってんだろ、クソババァ!」
「まぁ、この子ったら!口が悪いのは誰に似たのかしら。本当、いっつもお店の前に来ると喉が渇くんだから」
アリスは前屈みになり、隆一の顔をのぞき込む。
「こら、りゅうくん!お母さんのこと、そんなふうに言っちゃだめでしょ。ちゃんと謝りなさい」
アリスに言われ、隆一のつっぱりはすぐに瓦解した。
隆一は照れたまま上目遣いにアリスを見つめると、素直にごめんなさい、と呟いた。
「まったく、この子は!ほんと、アリスちゃんの言うことは聞くのよねー」
美和子は言葉と裏腹に、どこか嬉しそうだった。

「ほら母ちゃん、さっさと席につこうぜ!俺、いつものクリームソーダな!」
「はいはい。あ、アリスちゃん、私はレモンティーね」
「かしこまりましたー。ハナミさん、クリームソーダ、レモンティー1つ!」
「あいよー」
こんな様子で、メイド喫茶赤リンゴは日常を営んでいた。



暗雲立ちこめる山間に、雷が走る。
周囲の自然的な環境から、不釣り合いな近未来的扉が山肌から顔を覗かせる。
その扉の奥、暗い洞穴の先に、フリーメイドンの秘密基地がある。
洞窟の途中からは、完全な人工の地下施設に作り替えられている。
施設の中での、特に最奥に作られた玉座の間は、この世の禍々しさをすべて凝縮したような場所である。
部屋中に悪魔的な彫像の数々が並び、青白い炎のたつ松明が不気味さを際だたせる。
入り口からは、怪しげな文様の描かれた赤い絨毯が一直線に延び、その先に玉座がある。
玉座に座する者こそ、フリーメイドンを束ねる首領だ。
彼は玉座の周りに薄いカーテンを引き、威厳と神秘的さを醸し出していた。

「首領様っ!」
観音開きの大扉が、勢いよく放たれる。
入ってきたフリーメイドンのメイド長は、肩で息をするほど走り、その動きは胸まで揺らした。
「メイド長か、どうした」
「四天王の一人、『メイド軍師』が到着しました!」
「ほう、早いな。さすがはメイド軍師、余の考えなどお見通しか。しかし、用件はそれだけかね?」
「いえ、そ、それが……」
メイド長が言いかけると、足音が遮った。
「既に手はずは整えております」
メイド長の背後から現れたメイドは、胸をはだけた妖艶なメイド服に身を包んでいた。ハイヒールを鳴らしながら、軍師らしい羽扇を持って堂々たる振る舞いをする。
「ほう、手はずとな。聞かせてもらおうか」
「首領様、私はすでに裏切り者であるストロベリーメイドの身辺を調査し、勝てる作戦を展開しております。他の3人には手柄を独り占めするようで申し訳ありませんが、もはや首を差し出すのも時間の問題でしょう」
「さすがだな。期待しよう、軍師よ」
「はっ!必ずご期待に添えて見せます!」
軍師は足取り軽やかに部屋を出ていく。
「おのれ軍師めっ!勝手なマネをして!」
「よいよい、メイド長よ。我がメイド四天王の実力、とくと拝見しようではないか」
「は、首領様がそうおっしゃるのであれば」
首領はワインの入ったグラスをスワリングしながら、呟く。
「ククク、どうする、ストロベリーメイドよ……!」



「りゅう君を預かってほしい、ですか?」
アリスは飲み終わったグラスを回収しながら、美和子の申し出を聞き返してしまう。
「えぇ、明日一日だけなのですけれど、お願いできますか」
「りゅうくんさえよければ、大丈夫ですよ。ですよね、ハナミさん?」
「ま、お得意さんだし。そのくらい、喜んでお引き受けしますよ」
「ありがとうございます!それじゃ隆一、ご迷惑をかけないように、おとなしくしているのよ!」
「へっ、わかってらい!」

約束の日、よそ行きを着た美和子と隆一が赤リンゴにやってきた。
早々に隆一を預けると、美和子はよろしくお願いしますとだけ挨拶して、立ち去ってしまう。
その後ろ姿が、美和子を見た最後の姿になろうとは、誰もが思いもしなかった。
……いや、美和子としての最後の姿、だが。

「ふう、遅くなったわ。隆一ったら、きっと怒ってるわね……」
美和子は少しでも早く息子の元へ着くように、人気のない裏路地を足早に通る。
それは彼女へ忍び寄る魔の手にとって、絶好のタイミングだった。
「加山美和子さんですね」
「はい?」
美和子が振り返ると、そこにはメイド服を着た少女が数人立っていた。
全員同じメイド服を着ており、まるで人形のようにきちんとした姿勢で立っている。
目は虚ろで、一見すると意識があるのかないのかわからない。
「あの、あなた達は――――」
質問もままならず、美和子はメイド達に口を押さえられ、目隠しをされ、手足を縛られる。
「む、むー、むーーー!!」
数秒後、裏路地は元の静けさを湛えていた。


「こらりゅう君!待ちなさい!」
「やだよっ!」
アリスは店内を逃げ回る隆一を追いかける。
事の顛末は、些細なことだった。
隆一がコーヒーカップを欲しがった。
どうやら、描かれている動物の絵が気に入ったらしい。
隆一はこっそり持ち出そうとしたが、改造メイドたるアリスの鋭敏な感覚に捉えられ、現場を見られてしまう。
こうして、店内を逃げ回ることになった隆一であったが、アリスの超人的身体能力の前に、為すすべもなく追いつめられてしまう。
「ダメだよりゅう君、それ泥棒だよ。さ、今ならお兄ちゃん……じゃなかった、お姉ちゃん怒らないから、ちゃんと返しなさい!」
アリスは腰に手をあて、隆一を睨みつける。
隆一はコーヒーカップを隠すように抱きしめてしまう。
「だって、欲しいんだもん……!」
アリスはため息をついた。
「それなら、ちゃんと言い方があるでしょう?いきなり人のもの取ったら、泥棒だよ?りゅう君、泥棒ってわかるよね?お姉ちゃん、泥棒さんはキライだな」
「えっ……アリス姉ちゃん、俺のこと、キライ……?」
隆一は一瞬で青ざめる。
幼い隆一にとって、優しくて大好きなアリスに嫌われるのは、よほどショックであった。
「泥棒さんはキライだよ。りゅう君は、泥棒さん?」
隆一は思い切り首を振った。
「違う、俺泥棒じゃない!」
「なら、どうしたらいいか、わかるかな?」
「うん……。ごめんなさい、コーヒーカップ、返します」
隆一は観念してコーヒーカップを差し出す。
すると、アリスはしゃがむと、隆一の頭を撫でて囁いた。
「よしよし、よく言えました。エライぞ。それじゃ、エライりゅう君には、そのカップをプレゼントしましょう」
「えっ……?いいの?」
隆一は目を丸くしたまま、視線がアリスとカップをいったりきたりしてしまう。
「欲しいときに言う言葉、ちゃんと言えたらプレゼントするよ」
アリスは隆一にウインクした。
隆一は一息飲み込むと、呟いた。
「あの、こ、このコーヒーカップ、欲しいので、ください……」
アリスは満面の笑みでどうぞ、と返事をした。
隆一は飛び上がるほど喜んだ。
それまでのやりとりを、微笑み混じりに観察していたハナミが口を開く。
「ほほー、アリス君っていい母親になれそうだねぇ」
「ハナミさん……!何言ってるんですか。ボクはたまたま、妹で年下の扱いに慣れてただけですよ」
「ああ、どっちかというと、保母さんか。あ、今は保育士って言わないといけないんだっけ」
「ちょ、ちょっとハナミさん、からかわないでくださいよー」
「アハハハ、そうむくれるなって。それにしても、さっきまでずっと大人しかったのに、隆一君ってば、どうしたんだ」
「言われてみれば、確かに。ねぇりゅう君、どうして急にコーヒーカップを持ち出したりしたの?」
隆一の顔から喜びが消える。
「だって……だって、母ちゃん、遅いんだもん。約束だと、お日様が沈む前に迎えにくるって、約束したのに」
店内には、日が沈む間際の強い赤い光が射し込んでいる。
美和子の約束では、お日様が沈む前どころか、3時のおやつごろに迎えに来るという話だった。
ハナミは、美和子が来たときにサービスしようと焼いていたアップルパイを見つめる。
アップルパイは、すっかり冷めていた。
「確かに、加山さん遅いな。なんかあったのかな」
「りゅう君、お母さんの携帯の番号、わかる?」
隆一はわからない、と肩を落とす。
「遅いね、お母さん……」
アリスはひょっこり現れないかと、窓の外を見回す。
元々表通りから外れた店前は、人っ子一人いない。誰かが歩いてくれば、すぐにわかる。
それなのに、一向に美和子がやってくる気配がない。
あきらめかけたその時、アリスは窓にこつんと何かがぶつかったことに気づいた。
アリスは店の外に出て確かめると、それは綺麗な装飾が施された封筒であった。
宛名は『栃乙女アリス』とだけあった。
アリスは不安にかられた。
自分の事を知っている人なんて、限られている。
アリスはおそるおそる封筒を開けた。
中には、便箋が一枚だけ入っていた。
「(これは……)」
----加山美和子は預かった。返して欲しくば、一人で以下の地図に示す場所に来ること。
フリーメイドン----
アリスは顔が真っ青になった。
早くも、自分のせいで無関係な人間が巻き込まれてしまった。
自責の念は、フリーメイドンに対する怒りに変わっていく。
アリスは手紙を握りつぶすと、店内に戻った。
すぐにでも助けたい。しかし、間違いなく罠であることも理解していた。
どうすればいいか、一瞬でも冷静になって考えようとしたのだ。
アリスの様子に気づいたハナミが、なにかあったのか問いかける。
「(今ハナミさんに手紙の話をしたら、りゅう君にも内容が伝わってしまう……)」
アリスは何でもないと述べて少し考えた後、何食わぬ顔でハナミに申し出る。
「……ハナミさん、ちょっと買い物いってきます」
「お、おお、そうか?行くならいいけど」
「行ってきます!」
アリスは便箋をゴミ箱に放り投げると、慌ただしく出て行く。
ハナミは引き留めようと手を伸ばして声を上げるが、間に合わなかった。
「あっ……!あちゃー、アリスってば、あわてんぼうなんだから」
「どうしたの?」
「エコバッグ、忘れてる。全く、袋無駄になるだろうが」
「なーんだ、それなら俺が届けてやるよ」
「あら、お願いできるかい?悪いねぇ、ついでにお駄賃あげるから、一緒におやつでも買ってきていいよ」
「よし、やったぜっ!すぐ届けてくるよ!」
隆一はエコバッグと少額のお小遣いをうけとると、アリスの後を追った。


すっかり日は落ち、街灯がぽつぽつと点き始める。
アリスは足早に目的地に向かう。まるで、心の中を巡る様々な思いや考えを振り払うかのように。
美和子は無事だろうか。自分のせいで、巻き込んでしまった。フリーメイドンが、ますます許せない。フリーメイドンはどんな罠をしかけてくるのか。今の自分で倒せる相手だろうか。
考えることに集中していたせいだろう。遠くから隆一が追いついてきたことに、アリスは全く気づいていなかった。
隆一がアリスを呼んでも反応が無い。さらに買い物ができそうな店のある方とは違うところへ向かっていたので、隆一は首を傾げるばかりだ。
アリスは町中からどんどん外れていき、いよいよ人通りも無くなっていく。
アリスはちょうど行き交う人が誰もいなくなった所で、戦闘態勢に入る。全身に力を込めると、体が眩い輝きを放ち、ストロベリーメイド専用のメイド服に切り替わる。
この変身機能は、改造メイドの中でも、上位である合成メイド怪人の特徴だ。
隆一はその光景に、思わず立ち尽くしてしまう。アリスが何者なのか確かめたいという気持ちに駆られ、距離をおいたまま、黙ってついて行くのだった。



大勢の客を乗せた電車が、鉄道橋梁を五月蠅く駆け抜ける。
電車が川を横断し、町から町へと消えていく。ドップラー効果も無くなるほど離れると、今度は川のせせらぎが場を支配する。
指定された場所は河川敷、鉄道橋梁の真下。
人目につかない場所の典型と言える。
橋を支える巨大な柱の影に、フリーメイドンの使者は待っていた。
「さぁ、約束通り来たよ!加山さんを返してッ!」
アリスの怒鳴りに対し、奇妙な笑い声が返ってきた。
アリスは声に対し睨みを聞かせていたが、その表情は徐々に発見、疑問、驚愕、悔恨と変わっていく。
「よくおいでいただきました、アリスさん」
アリスの前に現れたのは、捕らわれたはずの加山美和子だった。
なぜ彼女が現れたのか。彼女は捕まってから、何があったのか。
全ては、彼女の服装を見れば理解できた。
真っ赤なワンピースに、桜の花を象ったエプロンをつけ、緑色のリボンとカチューシャがアクセントになっている。
紛れもない、メイド服だ。
美和子はフリーメイドンに連れ去られ、改造メイドにされた。
改造されたからだろうか、やたらと大きくなった胸が、アリスの視線を誘導する。
「アリスさん。私はあなたを説得するためにここに来たの。
アリスさん、どうしてフリーメイドンを裏切るのですか。
こんなに素晴らしいメイドに改造して、身も心も従属させていただけるのに」
美和子は自分を抱きしめ、改造時の快感を思いだし、浸る。
「最初は無理矢理連れてさられて、何も知らない私はフリーメイドンに対して恐怖と憎しみを抱いていたわ。
でも改造された瞬間、体中に電撃が走ったの。
今まで普通の人間として暮らしてきたことが、バカみたいに思えたわ。
メイド服に包まれた体のなんと安らぐことか!
あぁ、なんて素晴らしいのでしょう!早く、ほかの人たちにも、メイドとしての喜びを分けてあげたいわ!」
美和子は顔を火照らせ、完全にフリーメイドンの尖兵となったことを宣言する。
アリスは、奥歯を噛みしめた。
「さて、アリスさん。もう一度フリーメイドンに戻って、首領様に忠誠を誓い、洗脳を受けてくださいな」
美和子は笑顔でアリスを誘う。
アリスは鋭い視線で突き返した。
「ボクはもう、フリーメイドンを許すことはできない!それにフリーメイドンのメイドとしての喜びなんて、まやかしだ!無理矢理人の心を操っているだけだ!」
美和子はアリスを蔑むようにねめる。
「そうですか、残念です。やはり軍師様の仰った通りになりましたね。それでは、作戦の第二段階、ストロベリーメイドの抹殺を実行します」
「お願いです加山さん!正気に戻ってください!あなたは、フリーメイドンに心を支配されているだけなんです!」
「今の私は加山美和子ではない。
私はフリーメイドンの忠実なるメイドにして、さくらんぼとの合成メイド怪人。南陽美和子よ!」
すると美和子は胸大きく開いた胸元に両手を突っ込む。
胸の谷間から何かを取り出すのかと思いきや、胸を大きく見せていたそれを外してしまうのだった。
「そ、そんな!あの巨大な胸はパットだったの!?」
驚愕するアリスに、美和子はくすりと笑う。
「パット?いいえ、違うわ。これはグローブよ。ボクシングみたいに大きく、真っ赤なねっ!」
美和子が取り出したのは、さくらんぼのように赤く、丸い玉だった。それを両手に装着すると、姿勢を低く取り、一足でアリスの眼前に迫る。
ふりかぶる腕は、引き絞る弓矢のごときしなりを見せ、光線のように飛ぶ体が全体重を拳に乗せる。
あまりにも速い拳が、風圧の刃すら巻き起こし、アリスの頬が擦り切れてしまう。
アリスは咄嗟に腕をクロスし、ガードをした。
「くっ!」
アリスは吹き飛び、ごろごろと地面を転がる。
衝撃を受け止めた腕がしびれ、受け身すら取れないのだ。
アリスはなんとか立ち上がると、全神経を回避に専念させる。
美和子は次々とフックを、ストレートを、アッパーを繰り出す。
アリスはそれらを間一髪でかわすと、外れた必殺の一撃は河川敷のコンクリートを粉砕し、橋梁の柱を割り、伸びた雑草を風圧で刈り取ってしまう。
「(なんて速さだ……!これでは、ストロベリーフラッシュを放てない!)」
「いつまで逃げるつもりですか?」
息一つ切らさない美和子は、まるで速度の変わらない拳を繰り出していく。
防戦一方のアリスは、徐々に追い詰められていく。
拳風によって切られる箇所が増え、傷跡が大きくなっていく。
動きそのものも美和子に見切られ、再び一撃をもらうのは必然だった。
「かはッ!!」
吹き飛んだアリスは、橋梁の柱にめり込む。
ぱらぱらとコンクリート片をこぼしながら、人型の穴から崩れ落ち、身動きもとれずに地面に這いつくばる。
「弱い。なぜこんな合成メイド怪人一人に、首領様が手を煩わせるのでしょう。
……まぁ、理由なんて、メイドの私にはどうでもいいこと。命令に従い、首領様の満足がいく結果を持ち帰ることが、私の何より喜び。
さぁアリスさん。死んでください」
アリスは自分の体の状態を正確に把握していた。
回復には、まだ数秒かかる。それは、美和子がアリスにとどめをさすのに十分な時間だ。
アリスはタナトスの呼び声が聞こえた。
美和子が拳を振り上げると、戦いの時が止まる出来事が起きた。
「母ちゃん……?母ちゃん、どうして、メイドさん……?」
声のほうを、二人は同時に見た。暗がりでアリスを見失っていた隆一が、ようやく見つけたのだった。
「りゅう君!?き、来ちゃダメぇっ!」
アリスの叫びも空しく、隆一は持っていたエコバッグを落としたまま立ち尽くしてしまう。
「ふん、ダメじゃないの。ちゃんとお留守番してなきゃ。お母さんとの約束が守れない子には、おしおきが必要ね」
「母ちゃん、どうして、アリス姉ちゃんと戦ってるの?母ちゃん、何してるの、ねぇ、何してるの?!」
「ええぃ、うるさい!」
美和子は隆一の方に向き直ると、弾けるように飛んだ。
「りゅう君ッ!!!」
「う、うああぁあ!!?」
アリスは思わず目を閉じてしまう。
想像するのも恐ろしいその光景を、直視できない。
しかし、不思議なことに、美和子の剛拳が振るわれた音がしない。
アリスがおそるおそる目をあけると、しりもちをついて後ずさる隆一の姿と、拳を振り下ろせずに固まる美和子の姿があった。
「くっ……なぜだ……私はフリーメイドンの忠実なメイド……命令とあらば、たとえ息子すら平気で殺せる……。頭ではわかっている、理解しているのに、なぜだっ!なぜ手が動かない!」
アリスは好機を逃さなかった。体はもう十分に動く。アリスは飛び上がる。
「ストロベリィィ、キィィイック!!!」
強力な飛び蹴りは、美和子を川の真ん中まで吹き飛ばしてしまう。
巨大な水柱を上げ、美和子は水中に沈む。
「はぁ、はぁ……りゅう君、どうして、ここに来たの」
「お、俺、エコバッグ、届けようとして。そしたら、母ちゃんがメイドさんになってて、アリス姉ちゃんが戦ってて、もう、わけわかんなくて……!」
隆一は混乱していた。アリスは説明したくても、どんな言葉をかけていいかわからなかった。
「りゅう君、あれはお母さんじゃないの」
「嘘だッ!留守番の約束がどうとか言ってた!俺、母ちゃんのことを間違うもんか!」
「あなたのお母さんであって、もうお母さんじゃないの!フリーメイドンの改造メイドなの!」
「うっせえ!わけわかんねぇよ!俺の母ちゃんは、母ちゃんなんだ!」
話が進まないでいると、もう一人、アリスの後を追っていた人物が現れる。
「おーい、アリス、無事かぁ!」
ハナミが、アリスの捨てた手紙を持って現れる。
ハナミはアリスの様子が気になっており、捨てた手紙を見返して、すぐに後を追っていたのだ。
「アリス、りゅう君も無事かい。加山さんはどうした?」
「それが――――」
説明する間もなく、川の中心から水柱が立ち、美和子が姿を現す。
「お、おのれ、ストロベリーメイドめ、ゆ、許さぬぞ……!今すぐ殺してやる!」
言葉とは裏腹に、美和子は立っているのがやっとという様子である。
美和子は攻撃に特化しすぎた改造を施されたため、防御力がなさすぎたのだった。
「あ、あれは加山さん!?それじゃ、加山さんはフリーメイドンに……!」
「そう、ボク来た時には、もう完全にフリーメイドンのメイドになっていた。
だから、戦った」
アリスは迷った。今なら、美和子にとどめをさせる。
――――しかし、本当にそれでいいのか。
何の罪もない、アリスを倒すためだけに改造された一般人。
そんな美和子を手にかけることに割り切れないでいた。
それでも、アリスは現実を冷静に受け止めようとする。
今、アリスが美和子を倒さなければ、ここにいる全員が殺されてしまう。
隆一を、ハナミを守れるのは、アリスだけ。アリスが戦うことでしか守れない。
殺すか殺されるかの選択肢しか、無いのである。
アリスは、ついに決心した。
「ごめんハナミさん。りゅう君を遠くに連れてって。これからすること、見せたくない」
「……わかった。さぁ、りゅう君、こっちだ」
「おい、放せ!母ちゃんをどうするつもりだ!アリス姉ちゃん!何をするんだ!」
ハナミは無理やり隆一を持ち上げ、すぐに堤防の向こう側へと逃げる。
アリスは確認すると、力を胸の前に集中させた。
両手を構え、エネルギーを集中させる。
「さ、させるかぁあ!」
美和子は最後の力で跳躍する。しかし、初めの頃の勢いもなく、アリスに攻撃が届くことは決してない。
アリスの目から、一筋の雫がこぼれる。
「ストロベリー……フラッシュッ!」
イチゴ型の波動が、アリスから射出される。
それは河川敷のコンクリートをえぐり、川をモーセのごとく割る。
巨大な波動から逃れるすべもなく、美和子は巻き込まれる。
「ぐぬぅうう!フ、フリーメイドン、万ザァァァァイ!!!!!」
川の中心で、爆発が起こる。
一瞬だが、昼間になったかのような明るさだ。
爆風は川に波を起こし、撒きあがった水しぶきは雨のようにアリスに降り注いだ。
「(終わった……)」
アリスは自分の手を見た。とどめを刺した、自分の手を。
「お、おーい、アリス姉ちゃん!なんだ、今の爆発!」
ハナミを振りほどいた隆一が、アリスの元へやってきた。
ハナミも遅れて追いつく。
「アリス姉ちゃん、俺の母ちゃんはどうしたの?ねぇ、どこへ行ったの?」
アリスは言葉に詰まった。
うつむいたまま、震える声を絞り出す。
「美和子さんは………お母さんはね、とても遠いところへ行ったんだ」
「それ、どういう意味だよ」
「ボクが……ボクが、お母さんをね、遠いところへ、連れてったんだ」
「はっきり言えよ!俺だって……俺だって、今の爆発で、何があったかくらいわからぁ!」
「ごめん……ごめんね、りゅう君。ごめんなさい。美和子さんを、助けられなかった」
アリスはぼろぼろと泣き出してしまう。
隆一は苦虫をつぶしたような形相で、泣きながらアリスに飛びかかる。
「いいよ、いっぱい殴って。ボクは、りゅう君に酷いコトをしたから。本当に……酷いコト、しちゃった……」
「うぅわあああ!!できないっ!殴りたくても、殴りたいのに、できないんだよぉっ!だって、だって、だってだって!アリス姉ちゃんだって、すっごく辛いって、わかるからっ!殴れっていわれたって、殴れないんだよぉ!」
隆一は、握りつぶすようにアリスのメイド服を掴む。拳には子供とは思えないほどの力がこもっているのに、決して振り上げない。
「そっか……りゅう君は、強いんだね……。ボクなんかより、全然……」
アリスは、隆一の頭を優しく撫でた。それ以外に、今はしてあげられることがなかった。



「アリス、りゅう君は寝たかい?」
「はい、泣き疲れたみたいで、ようやく……」
店じまいした赤リンゴは、いつも以上に静まり返っていた。
カウンターに置かれたおしゃれなLEDランプだけが、現在唯一の明りである。
アリスはカウンター席に腰をかけた。
「そんなに気を落とすな……と言いたいが、ごめん、さすがにかける言葉がないよ」
「いえ、ボクのことはいいんです……。フリーメイドンと戦うと言うことは、遅かれ早かれ、こんな思いをすると思っていましたから」
「……そうかい」
ハナミは暖めておいたミルクをアリスの前にそっとおいた。
「飲みなよ。ホットミルクは体がほっとする、ってね」
「ありがとうございます」
アリスは一口、ミルクを口に含んだ。先ほどまでずっとしていた血の味が消えていき、口の中に甘いミルクの味が広がっていく。
一方、ハナミはバランタインファイネストをロックで飲み始める。
「ボク、やっぱり一人のほうがいいのかもしれないですね」
「周りの人を巻き込みたくない、か」
アリスは頷くと、続けた。
「ボクにはフリーメイドンと戦う明確な理由があります。でも、こうやって関係ない人を巻き込むのは、やっぱりイヤです」
「アリス君ってさ、優しいよね。でも、それって自分より他人が傷つくのがイヤっていう優しさだけだよ」
「どういう、意味ですか?」
「自分中心ってコト。相手が何を考えてるのかを前提に考えた優しさじゃないってコトかな。それはアリス君のいいところでもあるんだけどね」
「……すいません」
「別に謝ることじゃないさ。ただ、これだけは知って欲しいよ。このまま隆一君に何も言わずに出ていったら、どう思うだろうって」
「あっ――――」
アリスははっとした。もしここでアリスが何も言わずに出ていったら、それは隆一からすれば、逃げられたのと一緒だ。
アリスが美和子を殺してしまったという事実から、ただ逃げるだけ。
それはアリスがフリーメイドンと戦うためには、必要な逃げかもしれない。
だけど、ここで逃げてしまったら、隆一に合わせる顔がない。
アリスは決心した。
「フリーメイドンと戦うというのは、ただ暴力を振るうことだけではないのですね」
「それは人間が生きていくことと、変わらないと思うけどね」
「ハナミさんって、なんだかすっごく頼れるお姉さんって感じですね。……きっと、キリサキさんも、ハナミさんのことをいいお姉さんって頼りにしていたでしょう?」
「よ、よせやいっ、照れるだろ!とと、とにかく、アリスも疲れてるんだから、さっさと寝な。明日、ちゃんとりゅう君とちゃんと話をつけること。それがあたしにしてやれるアドバイスさ」
ハナミは酔いが回ったのか、顔をすっかり赤くして店の奥へ去ってしまう。
アリスが電気を消すと、ようやく赤リンゴの長い一日が終わった。




「おはよう、りゅう君」
朝、咄嗟に挨拶ができたものの、アリスはうっかりしていた時分を責める。
アリスが覚悟を決める前に、隆一とばったり廊下で出くわしてしまった。
「おはよう、アリス姉ちゃん」
アリスは、まずは胸を撫で下ろす。無視されると思っていたからだ。
「あの、昨日は、その……」
アリスは切り出そうとしたが、言葉に詰まってしまう。
まだ自分の中でまとまっていない考えを出そうとしたからだ。
ところが、隆一は意外な反応を返す。
「俺、アリス姉ちゃんのこと許さないから」
「えっ」
「だって、理由を何も言ってくれないんだもん。アリス姉ちゃんが、どうして変身して戦うのか、知らないんだもん。……きっと、その理由があるから、母ちゃんと戦ってたんだろう」
アリスは驚いたまま頷いた。
「ちゃんと理由を言ってくれれば、アリス姉ちゃんの事は責めないよ。……いや、ごめん、やっぱり嘘だ。
俺、どんな事情があっても、母ちゃんを遠くへ連れてった人のこと、許せないや。罪を償ってもらわなきゃ」
隆一の大人びたセリフに、アリスはどこか萎縮してしまう。
隆一は薄く笑いかけた。
「これからアリス姉ちゃんは、俺のことを一生かけて面倒見ること!いいな!じゃねえと、絶対許さないからな!」
アリスは隆一の優しさに対して、嬉しさのあまりに涙がでてしまう。
「りゅう君、ありがとう!いっぱい、償わせてください!」
柱の陰で見ていたハナミは、ほっとするのであった。
フリーメイドンとの戦いは、まだ始まったばかりだ。





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