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オリジナルSS「メイドトレイター」5話

ものすごく久々に5話を更新。
大分前から書いてあったのですが、読み直す暇がなかったので、だいぶ放置しておりました。
お待たせしました。新しい子が登場します。(まだ名前出てこないけど)
それではどうぞ
↓↓

前回のあらすじ
赤リンゴの常連客であった、加山美和子と加山隆一の母子。
母親の美和子は、フリーメイドンによって連れ去られて、改造メイドにされてしまう。
アリスは美和子と戦うという、非情で卑劣な罠に苦しめられるが、辛くも勝利する。ひとつ、大きな罪を背負って。



午後の昼下がり。メイド喫茶赤リンゴには、ちょうど3時のおやつを目当てにした客がやってきていた。
休憩に立ち寄ったらしいサラリーマン。学校が終わったのか、のどの渇きを癒やしにきた女子高生。ずっとレポートを書いている様子の大学生。
みんなにとって、赤リンゴはちょっとした憩いの場であった。
アリスは少し疲れた顔色で、しかし変わらぬ笑顔で接客していた。
「ただいま」
ドアベルが鳴ると、ぶっきらぼうな挨拶とともに隆一が店に入ってきた。
----隆一は今、赤リンゴに住んでいる。
隆一は母子家庭だったうえに、その母すら亡くしてしまった。母方の親戚はおらず、父方の親戚に引き取ってもらおうとしたが、どうにも煙たがられてしまった。アリス達は深く事情を問いつめたものの、隆一に対する風当たりは、台風のようであった。
だが隆一は、そんなことがあったことも知らず、ただ「アリスと一緒に居たい」という自分の気持ちを通した気でいた。
隆一は、自分の母を殺してしまったアリスに償いをさせるという考えに生きていた。
それは隆一の中での復讐であり、けじめでもあった。幼いながらも、アリスがどんな経緯で戦っていたのか、どんな思いで戦ったのかを、必死に理解しようとしていた。
だが、そうすればするほど、隆一の中で割り切れない思いがこみ上げてくるのだった。
隆一は沸き上がる感情的な気持ちを抑えるように、しかしアリスの事を思いやる気持ちを吐き出すようにした結果が、今のような態度だった。
「あ、おかえり、りゅう君」
アリスはすぐに隆一に挨拶を返す。
一方の隆一は買い物をすませたバッグをおくと、アリスの方を見ることなく言い放つ。
「それがご主人様に言うセリフ?」
カウンターに居たサラリーマンが、ギロリと隆一を睨む。
窓際の席にいた女子高生も、ちらりと隆一を見た。
店の奥に座る大学生だけは、イヤホンで音楽を聴いていて、状況に気づいていない。
すぐさまアリスは姿勢を正し、隆一に対して丁寧に頭を下げる。
「もうしわけございません。おかえりなさいませ、隆一様」
サラリーマンは飲んでいたコーヒーでむせてしまう。
女子高生も、ぴくりと反応した。
大学生もようやく店内の様子を感じたのか、イヤホンをとって様子をうかがう。
アリスは顔をあげると精一杯の笑顔を隆一に送る。
隆一は、それでも顔を見なかった。そのせいで、アリスの顔が少し青ざめている事に気づくことはなかった。
「……ふぅ」
ハナミは思わず、だが誰にも聞こえないほど小さく、ため息をついてしまう。
隆一がさっさと店の奥へ入ると、ハナミはアリスに耳打ちをした。
「アリス、ちょっと店頼むわ。」
ハナミはこっそり隆一の後を追った。
「りゅう君、いや隆一。アリスの顔をどうして見てやれないんだ」
美和子の命を絶つしかなかったのは、アリスにとって、千慮の一失かもしれない。
しかしそうしなければ、アリス自身だけでなく隆一を守れなかったのも事実だ。
「別に、これでいいってアリス姉ちゃんと決めたんだ。俺はもう、アリス姉ちゃんのご主人様だ。俺の怒りが収まるまで、アリス姉ちゃんは俺に尽くすことで、母ちゃんのことを許すって決めたんだ」
「隆一、いいかい。あたしもあんまり言える立場じゃないけどさ。こんな事になったのだって、フリーメイドンが原因なんだ。アリスに当たるのは、筋違いじゃないか」
隆一は地団駄を踏むように床を踏みつける。
「うっせぇ!!あの時……あの時、母ちゃんは確かに正気じゃなかった。俺を……俺を、殴ろうとしていた!なのに、なのに殴ろうとする手を振り下ろせなかった!きっと母ちゃんは、まだ母ちゃんとしての意識があったはずだ!それなのに、アリス姉ちゃんは、母ちゃんを倒してしまうことしか考えなかった!それがどうしても、どうしても許せないんだよ!」
「……気持ちはわかるよ。だけどね隆一、アリスに聞いたんだけど、あのとき美和子さんはあえて自分を倒してくれと言っていたそうだ」
「ほんとに……?なんで?」
「自分の意識があるうちに、隆一を傷つける前に、早く!って。あれ以上迷っていたら、倒せなくなっていた。確実な方法を選んだのは、アリスというより美和子さんの方だったのさ」
「そう、だったのか……」
ハナミの言葉に、隆一は一応の納得を示す。
ハナミはポーカーフェイスの頬を伝う汗に、緊張を乗せる。
「どうかアリスを責めないでやってくれ。あの子は、いろんな事を一人でしょいこもうとしてしまう嫌いがある。そして、そんなそぶりを他人に見せないよう、自分が本来できる以上にがんばってしまいがちなんだ。
そんなアリスをずっと見ている私だって、辛くなるよ」
「……俺、よくわかんねぇけどさ。ハナミ姉ちゃんは、アリス姉ちゃんが悪くないって言いたいのはわかったよ。でも、俺自分の気持ちがよくわかんないんだ。アリス姉ちゃんの事は好きだよ。だけど、母ちゃんとの事を考えると、許せないけど、でも心から憎む事ができなくて、なんかもう、どうしていいかわからなくなるんだ。思い切り叫んでしまいたい気持ちになるんだよ」
ハナミはそっと隆一を抱きしめる。
「隆一はすごいな。こんなちっこいのに、相手の気持ちをしっかり考えられるなんて。とっても優しくて、とっても強いよ。ごめんな、お姉ちゃんたち、隆一にお願いすることしかできなくて」
「おい、放せよ!そんな風にほめられたって、俺、なんて言えばいいのかわかんねぇよ……」
ハナミはそっと隆一から離れた。
「あたしとしちゃ、アリスを許してやって欲しいんだ。そうしないと、アリスはいつまでも苦しむことになる。でも、それを決めるのは隆一だ。どうするかは、隆一の好きにしたらいいさ」
「……わかったよ。いいよ、俺、アリス姉ちゃんを許すよ。そうしないと、いつまでもアリス姉ちゃんと普通にお話したりできなくなりそうだし」
その答えにハナミはほっとし、笑みをこぼす。
隆一はもう一度店内に足を運ぶのだった。

「あ、隆一様」
アリスの声に、隆一は思わず目をそらした。
隆一はぽりぽりと頭をかきながら言い放つ。
「もう様呼びはいいよ。今まで通りでいいから。変にメイドっぽい態度とらなくてもいいからさ」
アリスは隆一の顔をのぞき込むと、意地悪く問いかける。
「えぇ~、ボク、メイドとしてメイドらしい態度を示すのって生き甲斐なんだけどなぁ」
「バッ、へ、変なこと言ってんじゃねーよ!とにかく、今までのはナシ、ナシ!」
「……りゅう君、ボクのこと、許してくれるの?」
隆一はキッとアリスを睨むが、すぐに視線をそらし、ぼそっと呟いた。
「悪いことしてない奴に、許すも許さないもないだろ」
「んー?」
アリスは口元をほころばせ、首を傾げてさらに隆一の顔をのぞき込む。
「ちょ、顔ちけぇって!いいから、もう俺は気にしないから、アリス姉ちゃんも気にしないこと!」
「うん、ありがとう」
「フンッ……」
アリスは起きあがると、店内の仕事に戻る。
隆一は遠くに離れて、ようやくアリスをまじまじと見ることができた。しかし、隆一はアリスの顔を見て唖然とした。
アリスは明らかに青ざめた顔をしていた。とても辛そうなのに、そうは見えないよう、取り繕うようにして、いつもと変わらぬ笑顔を振りまいていた。
隆一は自分が許せなくなった。自分の感情一つで、アリスをここまで追いつめてしまったと、自分を責めた。
隆一はアリスを指さしながら、ハナミにアリスの体調について問いかける。
すると、ハナミはすぐにアリスに歩み寄る。
「アリス、なんだか顔色悪くないかい?」
「いえ、その、だ、大丈夫ですよ」
アリスの言葉とは裏腹に、もはや、具合が悪いのは誰の目にも明らかであった。
よろよろと歩くアリスは、普通ではなかった。ハナミから注文の品を受け取ろうとしたとき、ついに限界を迎える。
「あ、アリス君!?」
皿の割れる音が、店内全ての注目を集める。
アリスは大木が切り倒されるがごとく、地面へと崩れた。
アリスの体調不良は、紛れもなくストレスだった。
それは数々のショックな出来事、馴れない生活、悲しい戦いからくるものだった。
次々と状況に流され、フリーメイドンに対する憤りを支柱に、犠牲となった人々の思いを背負って生きていた。
それは、たとえフリーメイドンの改造メイドの体であっても、耐えられるものではない。
むしろ心と体の一致しない不安定な状態であるが故に、アリスを蝕んでいたと言える。



アリスが目を開けたとき、そこは自室のベッドの上だった。膝に重みを感じて視線を向けると、隆一が寝息をたてていた。外はもう夜だった。
アリスが起き上がると、ちょうど部屋にハナミが入ってきた。ハナミはアリスと目が合うなり、ほっとため息をついた。
「よく眠れたかい」
アリスは小さな声ではいと答えた。
「ゆっくり休みな。アリスってば、ここんとこ、がんばりすぎだよ」
「すいません……」
「謝るんだったら、休んでくれるんだな?」
アリスは質問に答えず、隆一の頭を撫でながら呟いた。
「ボク、どうしてこんなことやってるのかな」
「ずいぶん深刻だったか。ごめんね、アリス君って、なんだかんだで今の『アリス君』であることがとても上手だから、気がついてあげられなかったよ」
ハナミはひしとアリスを抱きしめた。
「……今はアリス君であろうとしなくていい。何も気にせず、今までの自分に戻っていいんだ」
ハナミからは、アリスがかつて嗅いだことのある懐かしい香りがした。
アリスは目を閉じ、ほんの一時の間浸った後、そっとハナミの手を掴む。
「ハナミさん、ありがとう。気持ちはうれしいけど、ボクはもう過去に戻るつもりはないんだ。どんなに懐かしくても、帰りたいと思っても、もう戻ってはこないから。それに、ボクががんばらないと、ボクみたいに悲しい人生になってしまう人が増えてしまうから」
「アリス……だから倒れちゃうんだよ。でも、きっとアリスがそんな優しい子だから、こうやって力になろうって思えるんだろうな。アリス……頼むから、元気になってくれよ」
「うん、ありがとうハナミさん!」
ハナミは隆一を抱えて部屋へ連れて行く。
アリスは布団をかけ直すと、再び目を閉じた。


山麓に轟く稲妻に引けを取らぬほどの雷が落ちる。怒りの声は、洞窟の奥、フリーメイドンの基地内、首領の間からだ。
「えぇい、なんたる無様な結果よ!メイド軍師よ、とんだ失態をしてくれたな!貴重な合成メイド怪人を失ってしまった!」
フリーメイドン首領の怒りは、飲みかけのワイングラスに叩きつけられ、地面へと散らばる。
メイド軍師は表情を変えることなく、言葉を返す。
「お言葉ですが、私は正直なところ、此度の戦いでストロベリーメイドを倒せるとは思っておりませんでした」
「ほう、ではどんないいわけか」
「あくまで、奴の力量を計っていました。それは物理的な実力ではなく、心理的なものなど、総合的にです」
首領は怒りを鎮め、肘掛けに手を突いて身を乗り出す。
「して、結果は」
「ハッ!ストロベリーメイドは実力こそ合成メイド怪人として、完璧とも言える出来映え。攻撃力そのものなら、まさにメイドの中でも完全無欠。しかし、所詮偉大なるフリーメイドンによる洗脳を受けていない身。ゆえに、非情になりきれず、人間的に脆い部分があります。そこを攻めれば、必ず!」
「なるほど、よくわかった。では早速作戦をーーーー」
言い掛けると、大声が響く。
「ちょっと待ちなァッ!」
メイド軍師が振り返り、首も顔を上げる。そこには体格のいいメイドが一人、扉を背に立っていた。
「軍師ばかりに手柄を奪われては納得がいかねぇ。次はフリーメイドン四天王の一人、この騎士メイドの出番にしてもらおうか!」
首領はニヤリと笑う。
「よかろう。ゆくよい、騎士メイドよ!」
丁寧に敬礼する騎士メイドは、得意げな笑みを軍師へと向ける。
軍師は、持っていた扇子をしならせた。



「それにしてもアリス、結局あれからあまり元気になってないじゃないか」
ハナミの一言に、アリスは言葉を詰まらせる。
「そうだぜ、アリス姉ちゃん。前みたいに辛そうって言うよりは、なんだかため息ついてる感じだけどさ」
アリスは首を傾げた後、答える。
「実は、最近ずっと監視されているみたいなんです」
「なんだって!?まさか、フリーメイドンの仕業!??」
「いえ、そんな邪悪な気配じゃないんですけど。ただ、ひたすら不気味なんです。気配だけあって、ひたすら見られている、みたいな。最近買い物をりゅう君についていってもらっているのも、実はボクが怖いからなんです。それで最近、全然眠れなくて」
「さすがの改造メイドも、寝不足には勝てないってわけか。ため息ってよりは、欠伸だったってわけか」
「けどよ、よーするにそれって、ストーカーってことじゃないか。許せねぇ……!アリス姉ちゃんに嫌がらせする奴なんて、俺がとっつかまえてやる!」
隆一は拳を突き出し、捕まえる身振りをする。
アリスは顔を少しほころばせた。
「ありがとう、りゅう君」
「なぁアリス、その視線ってのは今も感じているのか?」
「はい、今も感じます。なんとなく、ですけど」
「なるほど……。ということは、今いる客の中にストーカーの犯人がいるわけだな」
店内にいるのは、サラリーマン風の男性、女子高生、大学生と思しき男性の3人。
どの人物も常連で、常日頃アリスの近くにいるという意味では容疑者候補である。
サラリーマンはカウンターの端っこに座り、忙しそうに携帯をいじりつつ、ちらちらとアリス達のいるカウンターの奥に視線を向けている。
「…………」
「なぁ、あのオッサンが犯人じゃないか。ヒゲが濃いし、気持ち悪いくらい七三分けだし、なにより目線が変態っぽいぜ」
「りゅう君、見た目で判断しちゃ失礼だよ」
「ごめん。でも、なんであんなにこっち見てくるんだよ」
質問に対し、ハナミが意地の悪そうな笑みを浮かべて耳打ちする。
「そりゃあきっと、隆一がアリスを見るのと同じ理由じゃないかな?え、おマセさん?」
「バッ、お、俺はそんな目でアリス姉ちゃんを見た覚えなんてねぇよ!ったく、わかった、あのおっさんは怪しくないな!それじゃ、向こうの兄ちゃんか!?」
隆一が指さしたのは、店のもっとも奥に座る大学生らしき男性。
彼はいつもヘッドホンをしながらレポートを書いている。それ以外の行動を、誰も見たことがない。
「うーん……よくコーヒーと甘いものを注文されていて、きっと法学部系なのでしょうか、難しいレポートを書いていらしたのですが」
隆一は腕を組んで考えた。
「いや、レポートは口実で、毎日アリス姉ちゃんを見に来るのが真の目的かもしれない!」
再びハナミが意地悪く答える。
「へぇ、隆一がアリス君を見たいがために”喉が渇いた”って、言ってたみたいに?」
「俺はちげぇよ!そんな、せこいマネをしたりはしねぇって!
ん、コホン!ああ、じゃ、じゃあ、あの女子高生の姉ちゃんか?」
最後に犯人と睨んだのは、窓際の席に座る、女子高生だ。
近所の高校の制服を着ていて、この中では一番身元が割れている。
三つ編みをしてめがねをかけているという、いかにもマジメそうな雰囲気の子である。
「あの方はいつも窓際の席に座っていますね。物静かで、ポエムが趣味らしく、ハナミさんの入れるハーブティーを飲みながら、ああやって手帳にメモをとっているのが日課になっているみたいですよ」
「……別におかしいとこなんて、なんもねぇな。ちぇっ、結局誰も犯人じゃないじゃないか」
「隆一、まだわからないよ。改造メイドであるアリスに感づかれないほどのストーカーだ。普段の素行では、決して尻尾を見せないだろう」
「そんなすごい奴、どうやって見つけるんだよ」
ハナミはアリスと隆一を引き寄せ、さらに小声で話しかける。
「……いいか。相手はストーカーだ。アリスの事ならどこまでも追いかけてきても不思議ではない」
きょとんと相づちをうつアリスに、ハナミはニッと静かに笑う。
「そこで、アリスにはあえて囮になってもらうんだ」



アリスはテーブルを拭き終えると、額の汗を拭った。
一区切りついたのが合図だ。
「アリス、悪いが買い出しにいってくれ。いつものかごに財布とメモをいれといたから」
「はい、わかりました」
ハナミは小さくウインクして、アリスを応援した。
アリスが店を出ると、すぐさまサラリーマンの男がお勘定を払う。
男が出て行くのを確認すると、ハナミはひそかに携帯のメールをうつ。
「(アリス、一人出て行った。どう?)」
ほんの一時たつと、すぐに返事が来た。
「(今は違和感がありません。おそらく、違う人です)」
容疑者は二人になった。
ほとんど時を待たず、次に女子高生が店を出て行った。
それとほぼ同時に大学生を出て行く。
二人とも、アリスの出て行ったほうに向かった。
「俺、行ってくる!」
隆一がこっそり後を追った。



アリスは一瞬で気配を感じた。
店の中で感じていた、背筋がぞくっとする、どこかおどろおどろしい感覚である。
思わず振り返りたくなる気持ちを抑え、そっと携帯でメールを送る。
「(ハナミさん。感じます。来てます)」
「(そのまま普段通り、用事をすませてくれ。後ろから隆一が見守っているからさ)」
アリスは表情を平静に繕うと、少し足早に歩き始める。
アリスが感じる気配は距離を一定に保っており、距離を縮めるでも離れるでもない。
ひたすら不気味だった。
アリスが買い物を終えた頃、ようやく隆一から合図がくる。
それは、作戦の開始を示すものだ。作戦はいたって単純で、比較的高い塀の家が建ち並ぶ細い通りに誘い込み、そこでアリスが振り返り、後ろからついてきた隆一とともにはさみうちにするものだ。
ようやくの合図に、アリスはほっとしつつも、少しだけ疑問を感じていた。
本当は、買い物を済ませる前に作戦を決行し、さっさと犯人をとっちめる予定であった。それなのに、ここまで時間がかかったのはなぜだろうか。
首を傾げつつも、アリスは打ち合わせ通りに振り返る。
目に入ったのは、隆一の姿だけである。
……いや、かろうじて電信柱に隠れた影が二つ見えた。
どうやら隆一からの連絡が遅かったのは、最後まで犯人を絞れていなかったからだった。
アリスの鼓動がひとつ高くなった。
アリスは隆一と視線を合わせると、互いに無言で頷いた。
二人はゆっくりと電柱の陰に近づいていく。
鼓動が、ますます高くなっていく。
戦闘とは質の違う緊張感に、アリスは息を飲む。
すると、先にアリス側の電柱から一人、飛び出した。
出てきたのは、女子高生の方だった。
「あ、あの……」
彼女はもじもじしながら、アリスに声をかけてくる。
「こんにちは。こんなところで会うなんて、奇遇ですね」
アリスはあくまで普段通りに接する。
それに対して、女子高生はどこか申し訳なさそう似答えた。
「すいません、その、思わず隠れてしまって……」
ストーカーのいいわけとしては苦しいが、彼女の素っぽいしぐさのせいか、どこか納得してしまう。
「どうして、こんなところに?」
「それは、あの、その……」
女子高生はもじもじしながら言葉に詰まる。
すると、アリスはもう一つの電柱の陰が、わずかにキラりと光ったのを見た。
次の瞬間、カシャ、というシャッター音が聞こえる。
アリスは電柱を睨む。瞬時に全身が臨戦態勢になる。
「……この!」
「きゃっ!?」
アリスは瞬時に飛び上がる。
跳躍は、電柱から電柱の間を一足で跨ぐ。
着地と同時に、隆一が電柱の裏にいた人物をとりおさえていた。
「いてて!なんだこのガキ!」
「へっ、盗撮なんかしやがって!この!」
出てきたのは、大学生の男だ。
さすがに子供相手でも、背後からの不意打ちにはやられてしまったようだ。
アリスはすぐさまカメラを取り上げた。
「あなたがすストーカーだったんですね。ずっと私のことを、撮っていたんですね!」
強い口調には、怒りが込められていた。
ところが、男は答える。
「ち、違う、俺は違うんだ!」
「なにわけわかんないこと言っている!現行犯じゃないか!」
「りゅうくん……。この人は一度連れて行こう」
「あぁ、わかってる!」
アリスは安堵に似たため息をつくと、再び女子高生のところへ戻る。巻き込んでしまったことを謝りたかった。
女子高生は、まだ呆然としてた。
そして先ほどアリス飛び上がったときにだろうか、道に彼女が愛用している手帳が落ちていた。
アリスは手帳を拾い上げる。
「あっ」
瞬間、手帳が開いてしまい、思いがけず中身を見てしまう。
『7:08
アリスさんが目を覚ます。背伸びをする様子が色っぽい、
7:22
アリスさんの着替え中。今日もメイド服がばっちり決まっている。
7:45
アリスさん、朝の食事中。ほっぺについたご飯粒を摘んで食べるしぐさが、たまらなくカワイイ。ご飯粒になりたい。
(中略)
10:12
今日も店に入ると、アリスさんの笑顔に包まれる。幸せすぎて死にそう。
10:13
アリスさんが注文を聞きにきた。いつものですねと聞かれ、私のことを覚えてくれたことに、昇天してしまいそう!うれしい!アリスさん大好き。
10:41
アリスさんが注文を聞き間違える。頭に手をやってばつの悪そうにする姿は様式美。いつも左手が頭にいくのですね。私も覚えました。アリスさん大好き。
10:56
アリスさんが出かけてしまう。どこにいくのかな。お使いに行くアリスさんがとてもかわいい。大好き。
11:14
アリスさんの歩く姿がかわいい。アリスさん大好き。揺れるスカートがかわいい。アリスさん大好き。
ニーソに包まれた太股がかわいい。アリスさん大好き。風にたなびく髪がかわいい。アリスさん大好き。
11:18
アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。アリスさん大好き。』

アリスは驚愕が顔面から吹き出しながら、顔をあげると、対する女子高生は薄く微笑みかけていた。
「えへへ、バレちゃいましたか」
瞬間、アリスの全身にぞわっと鳥肌がたつ。
血の気が引いて、顔色はみるみる青くなる。
手帳を持った手はふるえ、足もふるえ、カタカタと歯をならしてしまう。
嗚咽にも似た、声にもならない小さな悲鳴をあげる。
女子高生が一歩近寄ると、アリスは間合いをとるかのごとく、後ずさる。
恐怖におののくアリスにかまわず、女子高生はニッコリと笑いかける。
「大好きです、アリスさん」

◆次回へつづく
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