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Almightでスマホ用ノベルゲーム作成「22回目:Uncaught TypeError: Cannot read property '1' of null」

さて、22回目は、急きょ、エラーについてです。
おそらく、長編を作っている方なら一度は遭遇したことがあるかもしれないエラーです。
今回私が遭遇したのは、「はじめから」を選んで、シナリオファイル「一章.ks」を読み込もうとしたとき、
いくらやっても読み込まなかった状態です。
この状態、フリーズすることなく、ひたすらボタンはクリックできるのに進まない、という状態でした。
試しにデータをロードして先に進もうとすると、ロードしてシナリオを開いた直後に固まります。
しかし、Almight特有の白画面(エラー警告)は出ない。
どうなってるのかなと思ってデバッグを開いたところ、コンソールで以下のようなエラーを吐いていました。

error.jpg

ちょっとでかいですが、文字がつぶれて見えなくなるといけないのでそのまま貼り付けました。
さて、注目すべきは赤枠をつけた部分。
Uncaught TypeError: Cannot read property '1' of null

なんのこっちゃ!?
ネット先生で調べると、jsファイルのエラーだとかが出てきてさらに意味不明に。
そもそもこのエラー、何か読み込もうとしたときに例外エラーが起きたという意味。
しかしnull(中身が空)の1が読み込めんとはよくわからないものです。
何か設定し忘れたファイルか、存在しないものを読み込もうとしたかを疑い、ファイル名がおかしくないかや、
以前# Almightでスマホ用ノベルゲーム作成「18回目+α:ファイルの文字コード」
でもやっていた文字コードバグが混じっているのかと思い、全ファイルを調査。
しかし、問題はない。

途方にくれ、しょうがなく正常なAlmightのフォルダをコピーし、100行くらいをコピペしては起動を繰り返し問題個所を捜索。
すると………………

…………そこには………

「えぇーーーっ!!!」

驚きのエラーが!

さて、Almightでは構文を書く際の約束があります。
それは、構文は「@」で書き始めるか、「[ ]」で囲うかです。
察しのいい人はもう気づいたかもしれませんね。
VOIDさんは癖と言うか、見た目から感じる生理的な印象から「[ ]」派です。
さて、これは必ず「[ ]」で囲わなければいけません。
そうです。
「[ 」だけになっていた箇所がありました。
今回のエラー、ようするに何の例外エラーかというと、構文を書き始まる個所があったけど、終わりが見えなくて参照ができなくなってますよ、みたいな意味だったようです。

しかし、普通のプログラムはファイルを読み込んだときではなく、その構文に到達した時にエラーを吐いて固まるものだけど、
Almightは高性能にもファイルを読み込んだ瞬間エラー箇所があればエラーを吐いて止まってくれるようです。
こういうエラーは見つかりにくいのに、案外しょうもないことがエラーであることが多い気がします。
みなさんも、数100数1000行書いてからデバッグするのではなく、新しい変数や処理を入れたらすかさずデバッグをしたほうがいいかもしれませんね。

……えっ、ただの書きミスじゃないかって?

大丈夫、まだ人生をミスしたわけじゃないさ。

それでは、おあとがよろしいようで~。次回へ続く。
次回こそは1章を無償公開予定?!

オリジナルSS「メイドトレイター」4話

遅くなりました、メイドトレイター4話です!今回は、今後レギュラーとなる隆一君が登場します。
なお、例により名産品にちなんだ合成メイド怪人が出ます。

前回までのあらすじ
キリサキのメモを頼りに、喫茶店赤リンゴを訪れた栃乙女アリス。その喫茶店のマスターは、キリサキの姉、ハナミだった。
アリスが事情を説明すると、ハナミは打倒フリーメイドンに協力してくれることになった。
こうしてアリスは、喫茶店赤リンゴならぬ、メイド喫茶赤リンゴで働くことになった。

アリスが働き始めて、メイド喫茶赤リンゴは生まれ変わっていた。
アリスは店内を徹底的に掃除し、今一つぱっとしなかった店内は、ブラインドを開けたがごとく明るくした。清潔感溢れる店内には可憐な花々を添え、小物や食器に至るまで女の子らしいかわいいデザインに変更された。
壁の補修も済ませ、看板も見やすくポップなデザインに変え、店の前にもプランターを置いて爽やかさで包んだ。
アリスは、自分が一人で店を変えてしまったことに驚いていた。
全ての原因は、改造メイドとしての本能だった。
メイドにとって、奉仕をさせていただくお屋敷は、まさに自身を表す鏡と言える。
アリスにとってのお屋敷は、今はこのメイド喫茶赤リンゴだ。
お屋敷における、メイドとしての仕事の基本。炊事洗濯掃除……それらをこなすことが改造メイドの生きる喜びである。
それらに付随して、より綺麗に見せること、こだわりを出すことなど、改造メイドはクォリティアップも惜しまない。
アリスが来るまでの店は、改造メイドにとっては徹底的に掃除したうえで、さらに綺麗に仕上げなければ気が済まないほど、有様だったのだ。
アリスが本能を呼び覚まされたのは、当然のことだった。
ハナミは店のあまりの変わりぶりに舌を巻いた。
変貌は喜びを得るものだった。
本来ハナミが目指していた店のイメージが、形となったのだから。
「これ、全部アリスがやったの?!」
「はいっ!もう、綺麗にしたくて、したくて、たまらなかったので!いかがでしょうか?」
ハナミは思わずアリスを抱きしめた。
「アハハハ!あんたって最高だよっ!これなら、お店をもっと盛り上げられそうだよ!」
喜びを享受しあう間もなく、ドアの鐘が客の来訪を告げる。
アリスはすぐに向き直り、姿勢を正した。
「い、いらっしゃいませぇ!」
入ってきたのは、サラリーマン風の男性だった。
ハナミがアリスの横腹を肘で小突くと、耳打ちをする。
「おいおい、メイド喫茶なら『おかえりなさいませ、ご主人様』だろ」
「えぇぇ、それ言わなきゃダメなんですかぁ」
「メイドのくせ嫌がるのかい」
「ボク、メイド喫茶のメイドはメイドとして認めてないんですよ。そもそもメイドってのは、ヴィクトリア時代に――――」
「だーもう、わかった、わかった!お客さんが呆然としてるから、早く接客してくれ!」
――――こうして、デコボコな二人ではあったが、うまく新しいスタートを切ることができたのだった。

何日かすると、だんだんとお客さんが増えてきた。
アリス目当ての男性客が多かったのは当然だが、ハナミの出す小料理の味もそこそこ良かったため、幅広い層に受けていた。
そして今日も、アリス目当ての客が店を訪れる。
「いらっしゃいませー!……あ、加山の奥さん!」
入ってきたのは、妙齢の女性と女性に手を繋がれていた男の子の二人。
奥さんは愛想良いが、男の子の方はむすっとしていた。
この二人、加山母子はアリスが働くようになってからの常連客だ。
母親の加山美和子はおっとりした雰囲気の主婦で、息子の加山隆一は幼いがやんちゃな子供である。
二人が最初に赤りんごを訪れたのは、買い物ついでに、休憩がてら寄っただけだった。
美和子の方は、店の雰囲気を第一印象から気に入っていた。
だが、リピーターになったのは、それだけが理由ではない。一緒に連れていた、隆一が特に店を気に入ったからだ。
……店と言うより、アリスの事が気になってしかたがないようだ。恋心に似た強烈な興味を、アリスに抱いていた。
本能か宿命か、男のサガには勝てずに目を引き、関心が向いてしまう。その感覚になれないせいか、アリスが気になることを、他人に言うのは羞恥に思うらしい。
周りには、丸わかりなのであるが。
隆一の仏頂面は、そういった恥から生じる照れを隠すためである。
隆一は顔を逸らしながらも、視線だけはちらちらとアリスに向けている。アリスと目が合うと、ますます照れてしまい顔を背けてしまう。
アリスは内心、わかりやすい子だな、と考えていた。
「こんにちは、アリスちゃん!すいませんねぇ、うちの子がまたアリスちゃんに会いたいって聞かないもんだから」
美和子の台詞を聞いた途端、隆一は繋いでいた手を放り投げるようにしてふりほどく。
「な、ば、ちげぇよっ!喉が渇いただけだっつってんだろ、クソババァ!」
「まぁ、この子ったら!口が悪いのは誰に似たのかしら。本当、いっつもお店の前に来ると喉が渇くんだから」
アリスは前屈みになり、隆一の顔をのぞき込む。
「こら、りゅうくん!お母さんのこと、そんなふうに言っちゃだめでしょ。ちゃんと謝りなさい」
アリスに言われ、隆一のつっぱりはすぐに瓦解した。
隆一は照れたまま上目遣いにアリスを見つめると、素直にごめんなさい、と呟いた。
「まったく、この子は!ほんと、アリスちゃんの言うことは聞くのよねー」
美和子は言葉と裏腹に、どこか嬉しそうだった。

「ほら母ちゃん、さっさと席につこうぜ!俺、いつものクリームソーダな!」
「はいはい。あ、アリスちゃん、私はレモンティーね」
「かしこまりましたー。ハナミさん、クリームソーダ、レモンティー1つ!」
「あいよー」
こんな様子で、メイド喫茶赤リンゴは日常を営んでいた。



暗雲立ちこめる山間に、雷が走る。
周囲の自然的な環境から、不釣り合いな近未来的扉が山肌から顔を覗かせる。
その扉の奥、暗い洞穴の先に、フリーメイドンの秘密基地がある。
洞窟の途中からは、完全な人工の地下施設に作り替えられている。
施設の中での、特に最奥に作られた玉座の間は、この世の禍々しさをすべて凝縮したような場所である。
部屋中に悪魔的な彫像の数々が並び、青白い炎のたつ松明が不気味さを際だたせる。
入り口からは、怪しげな文様の描かれた赤い絨毯が一直線に延び、その先に玉座がある。
玉座に座する者こそ、フリーメイドンを束ねる首領だ。
彼は玉座の周りに薄いカーテンを引き、威厳と神秘的さを醸し出していた。

「首領様っ!」
観音開きの大扉が、勢いよく放たれる。
入ってきたフリーメイドンのメイド長は、肩で息をするほど走り、その動きは胸まで揺らした。
「メイド長か、どうした」
「四天王の一人、『メイド軍師』が到着しました!」
「ほう、早いな。さすがはメイド軍師、余の考えなどお見通しか。しかし、用件はそれだけかね?」
「いえ、そ、それが……」
メイド長が言いかけると、足音が遮った。
「既に手はずは整えております」
メイド長の背後から現れたメイドは、胸をはだけた妖艶なメイド服に身を包んでいた。ハイヒールを鳴らしながら、軍師らしい羽扇を持って堂々たる振る舞いをする。
「ほう、手はずとな。聞かせてもらおうか」
「首領様、私はすでに裏切り者であるストロベリーメイドの身辺を調査し、勝てる作戦を展開しております。他の3人には手柄を独り占めするようで申し訳ありませんが、もはや首を差し出すのも時間の問題でしょう」
「さすがだな。期待しよう、軍師よ」
「はっ!必ずご期待に添えて見せます!」
軍師は足取り軽やかに部屋を出ていく。
「おのれ軍師めっ!勝手なマネをして!」
「よいよい、メイド長よ。我がメイド四天王の実力、とくと拝見しようではないか」
「は、首領様がそうおっしゃるのであれば」
首領はワインの入ったグラスをスワリングしながら、呟く。
「ククク、どうする、ストロベリーメイドよ……!」



「りゅう君を預かってほしい、ですか?」
アリスは飲み終わったグラスを回収しながら、美和子の申し出を聞き返してしまう。
「えぇ、明日一日だけなのですけれど、お願いできますか」
「りゅうくんさえよければ、大丈夫ですよ。ですよね、ハナミさん?」
「ま、お得意さんだし。そのくらい、喜んでお引き受けしますよ」
「ありがとうございます!それじゃ隆一、ご迷惑をかけないように、おとなしくしているのよ!」
「へっ、わかってらい!」

約束の日、よそ行きを着た美和子と隆一が赤リンゴにやってきた。
早々に隆一を預けると、美和子はよろしくお願いしますとだけ挨拶して、立ち去ってしまう。
その後ろ姿が、美和子を見た最後の姿になろうとは、誰もが思いもしなかった。
……いや、美和子としての最後の姿、だが。

「ふう、遅くなったわ。隆一ったら、きっと怒ってるわね……」
美和子は少しでも早く息子の元へ着くように、人気のない裏路地を足早に通る。
それは彼女へ忍び寄る魔の手にとって、絶好のタイミングだった。
「加山美和子さんですね」
「はい?」
美和子が振り返ると、そこにはメイド服を着た少女が数人立っていた。
全員同じメイド服を着ており、まるで人形のようにきちんとした姿勢で立っている。
目は虚ろで、一見すると意識があるのかないのかわからない。
「あの、あなた達は――――」
質問もままならず、美和子はメイド達に口を押さえられ、目隠しをされ、手足を縛られる。
「む、むー、むーーー!!」
数秒後、裏路地は元の静けさを湛えていた。


「こらりゅう君!待ちなさい!」
「やだよっ!」
アリスは店内を逃げ回る隆一を追いかける。
事の顛末は、些細なことだった。
隆一がコーヒーカップを欲しがった。
どうやら、描かれている動物の絵が気に入ったらしい。
隆一はこっそり持ち出そうとしたが、改造メイドたるアリスの鋭敏な感覚に捉えられ、現場を見られてしまう。
こうして、店内を逃げ回ることになった隆一であったが、アリスの超人的身体能力の前に、為すすべもなく追いつめられてしまう。
「ダメだよりゅう君、それ泥棒だよ。さ、今ならお兄ちゃん……じゃなかった、お姉ちゃん怒らないから、ちゃんと返しなさい!」
アリスは腰に手をあて、隆一を睨みつける。
隆一はコーヒーカップを隠すように抱きしめてしまう。
「だって、欲しいんだもん……!」
アリスはため息をついた。
「それなら、ちゃんと言い方があるでしょう?いきなり人のもの取ったら、泥棒だよ?りゅう君、泥棒ってわかるよね?お姉ちゃん、泥棒さんはキライだな」
「えっ……アリス姉ちゃん、俺のこと、キライ……?」
隆一は一瞬で青ざめる。
幼い隆一にとって、優しくて大好きなアリスに嫌われるのは、よほどショックであった。
「泥棒さんはキライだよ。りゅう君は、泥棒さん?」
隆一は思い切り首を振った。
「違う、俺泥棒じゃない!」
「なら、どうしたらいいか、わかるかな?」
「うん……。ごめんなさい、コーヒーカップ、返します」
隆一は観念してコーヒーカップを差し出す。
すると、アリスはしゃがむと、隆一の頭を撫でて囁いた。
「よしよし、よく言えました。エライぞ。それじゃ、エライりゅう君には、そのカップをプレゼントしましょう」
「えっ……?いいの?」
隆一は目を丸くしたまま、視線がアリスとカップをいったりきたりしてしまう。
「欲しいときに言う言葉、ちゃんと言えたらプレゼントするよ」
アリスは隆一にウインクした。
隆一は一息飲み込むと、呟いた。
「あの、こ、このコーヒーカップ、欲しいので、ください……」
アリスは満面の笑みでどうぞ、と返事をした。
隆一は飛び上がるほど喜んだ。
それまでのやりとりを、微笑み混じりに観察していたハナミが口を開く。
「ほほー、アリス君っていい母親になれそうだねぇ」
「ハナミさん……!何言ってるんですか。ボクはたまたま、妹で年下の扱いに慣れてただけですよ」
「ああ、どっちかというと、保母さんか。あ、今は保育士って言わないといけないんだっけ」
「ちょ、ちょっとハナミさん、からかわないでくださいよー」
「アハハハ、そうむくれるなって。それにしても、さっきまでずっと大人しかったのに、隆一君ってば、どうしたんだ」
「言われてみれば、確かに。ねぇりゅう君、どうして急にコーヒーカップを持ち出したりしたの?」
隆一の顔から喜びが消える。
「だって……だって、母ちゃん、遅いんだもん。約束だと、お日様が沈む前に迎えにくるって、約束したのに」
店内には、日が沈む間際の強い赤い光が射し込んでいる。
美和子の約束では、お日様が沈む前どころか、3時のおやつごろに迎えに来るという話だった。
ハナミは、美和子が来たときにサービスしようと焼いていたアップルパイを見つめる。
アップルパイは、すっかり冷めていた。
「確かに、加山さん遅いな。なんかあったのかな」
「りゅう君、お母さんの携帯の番号、わかる?」
隆一はわからない、と肩を落とす。
「遅いね、お母さん……」
アリスはひょっこり現れないかと、窓の外を見回す。
元々表通りから外れた店前は、人っ子一人いない。誰かが歩いてくれば、すぐにわかる。
それなのに、一向に美和子がやってくる気配がない。
あきらめかけたその時、アリスは窓にこつんと何かがぶつかったことに気づいた。
アリスは店の外に出て確かめると、それは綺麗な装飾が施された封筒であった。
宛名は『栃乙女アリス』とだけあった。
アリスは不安にかられた。
自分の事を知っている人なんて、限られている。
アリスはおそるおそる封筒を開けた。
中には、便箋が一枚だけ入っていた。
「(これは……)」
----加山美和子は預かった。返して欲しくば、一人で以下の地図に示す場所に来ること。
フリーメイドン----
アリスは顔が真っ青になった。
早くも、自分のせいで無関係な人間が巻き込まれてしまった。
自責の念は、フリーメイドンに対する怒りに変わっていく。
アリスは手紙を握りつぶすと、店内に戻った。
すぐにでも助けたい。しかし、間違いなく罠であることも理解していた。
どうすればいいか、一瞬でも冷静になって考えようとしたのだ。
アリスの様子に気づいたハナミが、なにかあったのか問いかける。
「(今ハナミさんに手紙の話をしたら、りゅう君にも内容が伝わってしまう……)」
アリスは何でもないと述べて少し考えた後、何食わぬ顔でハナミに申し出る。
「……ハナミさん、ちょっと買い物いってきます」
「お、おお、そうか?行くならいいけど」
「行ってきます!」
アリスは便箋をゴミ箱に放り投げると、慌ただしく出て行く。
ハナミは引き留めようと手を伸ばして声を上げるが、間に合わなかった。
「あっ……!あちゃー、アリスってば、あわてんぼうなんだから」
「どうしたの?」
「エコバッグ、忘れてる。全く、袋無駄になるだろうが」
「なーんだ、それなら俺が届けてやるよ」
「あら、お願いできるかい?悪いねぇ、ついでにお駄賃あげるから、一緒におやつでも買ってきていいよ」
「よし、やったぜっ!すぐ届けてくるよ!」
隆一はエコバッグと少額のお小遣いをうけとると、アリスの後を追った。


すっかり日は落ち、街灯がぽつぽつと点き始める。
アリスは足早に目的地に向かう。まるで、心の中を巡る様々な思いや考えを振り払うかのように。
美和子は無事だろうか。自分のせいで、巻き込んでしまった。フリーメイドンが、ますます許せない。フリーメイドンはどんな罠をしかけてくるのか。今の自分で倒せる相手だろうか。
考えることに集中していたせいだろう。遠くから隆一が追いついてきたことに、アリスは全く気づいていなかった。
隆一がアリスを呼んでも反応が無い。さらに買い物ができそうな店のある方とは違うところへ向かっていたので、隆一は首を傾げるばかりだ。
アリスは町中からどんどん外れていき、いよいよ人通りも無くなっていく。
アリスはちょうど行き交う人が誰もいなくなった所で、戦闘態勢に入る。全身に力を込めると、体が眩い輝きを放ち、ストロベリーメイド専用のメイド服に切り替わる。
この変身機能は、改造メイドの中でも、上位である合成メイド怪人の特徴だ。
隆一はその光景に、思わず立ち尽くしてしまう。アリスが何者なのか確かめたいという気持ちに駆られ、距離をおいたまま、黙ってついて行くのだった。



大勢の客を乗せた電車が、鉄道橋梁を五月蠅く駆け抜ける。
電車が川を横断し、町から町へと消えていく。ドップラー効果も無くなるほど離れると、今度は川のせせらぎが場を支配する。
指定された場所は河川敷、鉄道橋梁の真下。
人目につかない場所の典型と言える。
橋を支える巨大な柱の影に、フリーメイドンの使者は待っていた。
「さぁ、約束通り来たよ!加山さんを返してッ!」
アリスの怒鳴りに対し、奇妙な笑い声が返ってきた。
アリスは声に対し睨みを聞かせていたが、その表情は徐々に発見、疑問、驚愕、悔恨と変わっていく。
「よくおいでいただきました、アリスさん」
アリスの前に現れたのは、捕らわれたはずの加山美和子だった。
なぜ彼女が現れたのか。彼女は捕まってから、何があったのか。
全ては、彼女の服装を見れば理解できた。
真っ赤なワンピースに、桜の花を象ったエプロンをつけ、緑色のリボンとカチューシャがアクセントになっている。
紛れもない、メイド服だ。
美和子はフリーメイドンに連れ去られ、改造メイドにされた。
改造されたからだろうか、やたらと大きくなった胸が、アリスの視線を誘導する。
「アリスさん。私はあなたを説得するためにここに来たの。
アリスさん、どうしてフリーメイドンを裏切るのですか。
こんなに素晴らしいメイドに改造して、身も心も従属させていただけるのに」
美和子は自分を抱きしめ、改造時の快感を思いだし、浸る。
「最初は無理矢理連れてさられて、何も知らない私はフリーメイドンに対して恐怖と憎しみを抱いていたわ。
でも改造された瞬間、体中に電撃が走ったの。
今まで普通の人間として暮らしてきたことが、バカみたいに思えたわ。
メイド服に包まれた体のなんと安らぐことか!
あぁ、なんて素晴らしいのでしょう!早く、ほかの人たちにも、メイドとしての喜びを分けてあげたいわ!」
美和子は顔を火照らせ、完全にフリーメイドンの尖兵となったことを宣言する。
アリスは、奥歯を噛みしめた。
「さて、アリスさん。もう一度フリーメイドンに戻って、首領様に忠誠を誓い、洗脳を受けてくださいな」
美和子は笑顔でアリスを誘う。
アリスは鋭い視線で突き返した。
「ボクはもう、フリーメイドンを許すことはできない!それにフリーメイドンのメイドとしての喜びなんて、まやかしだ!無理矢理人の心を操っているだけだ!」
美和子はアリスを蔑むようにねめる。
「そうですか、残念です。やはり軍師様の仰った通りになりましたね。それでは、作戦の第二段階、ストロベリーメイドの抹殺を実行します」
「お願いです加山さん!正気に戻ってください!あなたは、フリーメイドンに心を支配されているだけなんです!」
「今の私は加山美和子ではない。
私はフリーメイドンの忠実なるメイドにして、さくらんぼとの合成メイド怪人。南陽美和子よ!」
すると美和子は胸大きく開いた胸元に両手を突っ込む。
胸の谷間から何かを取り出すのかと思いきや、胸を大きく見せていたそれを外してしまうのだった。
「そ、そんな!あの巨大な胸はパットだったの!?」
驚愕するアリスに、美和子はくすりと笑う。
「パット?いいえ、違うわ。これはグローブよ。ボクシングみたいに大きく、真っ赤なねっ!」
美和子が取り出したのは、さくらんぼのように赤く、丸い玉だった。それを両手に装着すると、姿勢を低く取り、一足でアリスの眼前に迫る。
ふりかぶる腕は、引き絞る弓矢のごときしなりを見せ、光線のように飛ぶ体が全体重を拳に乗せる。
あまりにも速い拳が、風圧の刃すら巻き起こし、アリスの頬が擦り切れてしまう。
アリスは咄嗟に腕をクロスし、ガードをした。
「くっ!」
アリスは吹き飛び、ごろごろと地面を転がる。
衝撃を受け止めた腕がしびれ、受け身すら取れないのだ。
アリスはなんとか立ち上がると、全神経を回避に専念させる。
美和子は次々とフックを、ストレートを、アッパーを繰り出す。
アリスはそれらを間一髪でかわすと、外れた必殺の一撃は河川敷のコンクリートを粉砕し、橋梁の柱を割り、伸びた雑草を風圧で刈り取ってしまう。
「(なんて速さだ……!これでは、ストロベリーフラッシュを放てない!)」
「いつまで逃げるつもりですか?」
息一つ切らさない美和子は、まるで速度の変わらない拳を繰り出していく。
防戦一方のアリスは、徐々に追い詰められていく。
拳風によって切られる箇所が増え、傷跡が大きくなっていく。
動きそのものも美和子に見切られ、再び一撃をもらうのは必然だった。
「かはッ!!」
吹き飛んだアリスは、橋梁の柱にめり込む。
ぱらぱらとコンクリート片をこぼしながら、人型の穴から崩れ落ち、身動きもとれずに地面に這いつくばる。
「弱い。なぜこんな合成メイド怪人一人に、首領様が手を煩わせるのでしょう。
……まぁ、理由なんて、メイドの私にはどうでもいいこと。命令に従い、首領様の満足がいく結果を持ち帰ることが、私の何より喜び。
さぁアリスさん。死んでください」
アリスは自分の体の状態を正確に把握していた。
回復には、まだ数秒かかる。それは、美和子がアリスにとどめをさすのに十分な時間だ。
アリスはタナトスの呼び声が聞こえた。
美和子が拳を振り上げると、戦いの時が止まる出来事が起きた。
「母ちゃん……?母ちゃん、どうして、メイドさん……?」
声のほうを、二人は同時に見た。暗がりでアリスを見失っていた隆一が、ようやく見つけたのだった。
「りゅう君!?き、来ちゃダメぇっ!」
アリスの叫びも空しく、隆一は持っていたエコバッグを落としたまま立ち尽くしてしまう。
「ふん、ダメじゃないの。ちゃんとお留守番してなきゃ。お母さんとの約束が守れない子には、おしおきが必要ね」
「母ちゃん、どうして、アリス姉ちゃんと戦ってるの?母ちゃん、何してるの、ねぇ、何してるの?!」
「ええぃ、うるさい!」
美和子は隆一の方に向き直ると、弾けるように飛んだ。
「りゅう君ッ!!!」
「う、うああぁあ!!?」
アリスは思わず目を閉じてしまう。
想像するのも恐ろしいその光景を、直視できない。
しかし、不思議なことに、美和子の剛拳が振るわれた音がしない。
アリスがおそるおそる目をあけると、しりもちをついて後ずさる隆一の姿と、拳を振り下ろせずに固まる美和子の姿があった。
「くっ……なぜだ……私はフリーメイドンの忠実なメイド……命令とあらば、たとえ息子すら平気で殺せる……。頭ではわかっている、理解しているのに、なぜだっ!なぜ手が動かない!」
アリスは好機を逃さなかった。体はもう十分に動く。アリスは飛び上がる。
「ストロベリィィ、キィィイック!!!」
強力な飛び蹴りは、美和子を川の真ん中まで吹き飛ばしてしまう。
巨大な水柱を上げ、美和子は水中に沈む。
「はぁ、はぁ……りゅう君、どうして、ここに来たの」
「お、俺、エコバッグ、届けようとして。そしたら、母ちゃんがメイドさんになってて、アリス姉ちゃんが戦ってて、もう、わけわかんなくて……!」
隆一は混乱していた。アリスは説明したくても、どんな言葉をかけていいかわからなかった。
「りゅう君、あれはお母さんじゃないの」
「嘘だッ!留守番の約束がどうとか言ってた!俺、母ちゃんのことを間違うもんか!」
「あなたのお母さんであって、もうお母さんじゃないの!フリーメイドンの改造メイドなの!」
「うっせえ!わけわかんねぇよ!俺の母ちゃんは、母ちゃんなんだ!」
話が進まないでいると、もう一人、アリスの後を追っていた人物が現れる。
「おーい、アリス、無事かぁ!」
ハナミが、アリスの捨てた手紙を持って現れる。
ハナミはアリスの様子が気になっており、捨てた手紙を見返して、すぐに後を追っていたのだ。
「アリス、りゅう君も無事かい。加山さんはどうした?」
「それが――――」
説明する間もなく、川の中心から水柱が立ち、美和子が姿を現す。
「お、おのれ、ストロベリーメイドめ、ゆ、許さぬぞ……!今すぐ殺してやる!」
言葉とは裏腹に、美和子は立っているのがやっとという様子である。
美和子は攻撃に特化しすぎた改造を施されたため、防御力がなさすぎたのだった。
「あ、あれは加山さん!?それじゃ、加山さんはフリーメイドンに……!」
「そう、ボク来た時には、もう完全にフリーメイドンのメイドになっていた。
だから、戦った」
アリスは迷った。今なら、美和子にとどめをさせる。
――――しかし、本当にそれでいいのか。
何の罪もない、アリスを倒すためだけに改造された一般人。
そんな美和子を手にかけることに割り切れないでいた。
それでも、アリスは現実を冷静に受け止めようとする。
今、アリスが美和子を倒さなければ、ここにいる全員が殺されてしまう。
隆一を、ハナミを守れるのは、アリスだけ。アリスが戦うことでしか守れない。
殺すか殺されるかの選択肢しか、無いのである。
アリスは、ついに決心した。
「ごめんハナミさん。りゅう君を遠くに連れてって。これからすること、見せたくない」
「……わかった。さぁ、りゅう君、こっちだ」
「おい、放せ!母ちゃんをどうするつもりだ!アリス姉ちゃん!何をするんだ!」
ハナミは無理やり隆一を持ち上げ、すぐに堤防の向こう側へと逃げる。
アリスは確認すると、力を胸の前に集中させた。
両手を構え、エネルギーを集中させる。
「さ、させるかぁあ!」
美和子は最後の力で跳躍する。しかし、初めの頃の勢いもなく、アリスに攻撃が届くことは決してない。
アリスの目から、一筋の雫がこぼれる。
「ストロベリー……フラッシュッ!」
イチゴ型の波動が、アリスから射出される。
それは河川敷のコンクリートをえぐり、川をモーセのごとく割る。
巨大な波動から逃れるすべもなく、美和子は巻き込まれる。
「ぐぬぅうう!フ、フリーメイドン、万ザァァァァイ!!!!!」
川の中心で、爆発が起こる。
一瞬だが、昼間になったかのような明るさだ。
爆風は川に波を起こし、撒きあがった水しぶきは雨のようにアリスに降り注いだ。
「(終わった……)」
アリスは自分の手を見た。とどめを刺した、自分の手を。
「お、おーい、アリス姉ちゃん!なんだ、今の爆発!」
ハナミを振りほどいた隆一が、アリスの元へやってきた。
ハナミも遅れて追いつく。
「アリス姉ちゃん、俺の母ちゃんはどうしたの?ねぇ、どこへ行ったの?」
アリスは言葉に詰まった。
うつむいたまま、震える声を絞り出す。
「美和子さんは………お母さんはね、とても遠いところへ行ったんだ」
「それ、どういう意味だよ」
「ボクが……ボクが、お母さんをね、遠いところへ、連れてったんだ」
「はっきり言えよ!俺だって……俺だって、今の爆発で、何があったかくらいわからぁ!」
「ごめん……ごめんね、りゅう君。ごめんなさい。美和子さんを、助けられなかった」
アリスはぼろぼろと泣き出してしまう。
隆一は苦虫をつぶしたような形相で、泣きながらアリスに飛びかかる。
「いいよ、いっぱい殴って。ボクは、りゅう君に酷いコトをしたから。本当に……酷いコト、しちゃった……」
「うぅわあああ!!できないっ!殴りたくても、殴りたいのに、できないんだよぉっ!だって、だって、だってだって!アリス姉ちゃんだって、すっごく辛いって、わかるからっ!殴れっていわれたって、殴れないんだよぉ!」
隆一は、握りつぶすようにアリスのメイド服を掴む。拳には子供とは思えないほどの力がこもっているのに、決して振り上げない。
「そっか……りゅう君は、強いんだね……。ボクなんかより、全然……」
アリスは、隆一の頭を優しく撫でた。それ以外に、今はしてあげられることがなかった。



「アリス、りゅう君は寝たかい?」
「はい、泣き疲れたみたいで、ようやく……」
店じまいした赤リンゴは、いつも以上に静まり返っていた。
カウンターに置かれたおしゃれなLEDランプだけが、現在唯一の明りである。
アリスはカウンター席に腰をかけた。
「そんなに気を落とすな……と言いたいが、ごめん、さすがにかける言葉がないよ」
「いえ、ボクのことはいいんです……。フリーメイドンと戦うと言うことは、遅かれ早かれ、こんな思いをすると思っていましたから」
「……そうかい」
ハナミは暖めておいたミルクをアリスの前にそっとおいた。
「飲みなよ。ホットミルクは体がほっとする、ってね」
「ありがとうございます」
アリスは一口、ミルクを口に含んだ。先ほどまでずっとしていた血の味が消えていき、口の中に甘いミルクの味が広がっていく。
一方、ハナミはバランタインファイネストをロックで飲み始める。
「ボク、やっぱり一人のほうがいいのかもしれないですね」
「周りの人を巻き込みたくない、か」
アリスは頷くと、続けた。
「ボクにはフリーメイドンと戦う明確な理由があります。でも、こうやって関係ない人を巻き込むのは、やっぱりイヤです」
「アリス君ってさ、優しいよね。でも、それって自分より他人が傷つくのがイヤっていう優しさだけだよ」
「どういう、意味ですか?」
「自分中心ってコト。相手が何を考えてるのかを前提に考えた優しさじゃないってコトかな。それはアリス君のいいところでもあるんだけどね」
「……すいません」
「別に謝ることじゃないさ。ただ、これだけは知って欲しいよ。このまま隆一君に何も言わずに出ていったら、どう思うだろうって」
「あっ――――」
アリスははっとした。もしここでアリスが何も言わずに出ていったら、それは隆一からすれば、逃げられたのと一緒だ。
アリスが美和子を殺してしまったという事実から、ただ逃げるだけ。
それはアリスがフリーメイドンと戦うためには、必要な逃げかもしれない。
だけど、ここで逃げてしまったら、隆一に合わせる顔がない。
アリスは決心した。
「フリーメイドンと戦うというのは、ただ暴力を振るうことだけではないのですね」
「それは人間が生きていくことと、変わらないと思うけどね」
「ハナミさんって、なんだかすっごく頼れるお姉さんって感じですね。……きっと、キリサキさんも、ハナミさんのことをいいお姉さんって頼りにしていたでしょう?」
「よ、よせやいっ、照れるだろ!とと、とにかく、アリスも疲れてるんだから、さっさと寝な。明日、ちゃんとりゅう君とちゃんと話をつけること。それがあたしにしてやれるアドバイスさ」
ハナミは酔いが回ったのか、顔をすっかり赤くして店の奥へ去ってしまう。
アリスが電気を消すと、ようやく赤リンゴの長い一日が終わった。




「おはよう、りゅう君」
朝、咄嗟に挨拶ができたものの、アリスはうっかりしていた時分を責める。
アリスが覚悟を決める前に、隆一とばったり廊下で出くわしてしまった。
「おはよう、アリス姉ちゃん」
アリスは、まずは胸を撫で下ろす。無視されると思っていたからだ。
「あの、昨日は、その……」
アリスは切り出そうとしたが、言葉に詰まってしまう。
まだ自分の中でまとまっていない考えを出そうとしたからだ。
ところが、隆一は意外な反応を返す。
「俺、アリス姉ちゃんのこと許さないから」
「えっ」
「だって、理由を何も言ってくれないんだもん。アリス姉ちゃんが、どうして変身して戦うのか、知らないんだもん。……きっと、その理由があるから、母ちゃんと戦ってたんだろう」
アリスは驚いたまま頷いた。
「ちゃんと理由を言ってくれれば、アリス姉ちゃんの事は責めないよ。……いや、ごめん、やっぱり嘘だ。
俺、どんな事情があっても、母ちゃんを遠くへ連れてった人のこと、許せないや。罪を償ってもらわなきゃ」
隆一の大人びたセリフに、アリスはどこか萎縮してしまう。
隆一は薄く笑いかけた。
「これからアリス姉ちゃんは、俺のことを一生かけて面倒見ること!いいな!じゃねえと、絶対許さないからな!」
アリスは隆一の優しさに対して、嬉しさのあまりに涙がでてしまう。
「りゅう君、ありがとう!いっぱい、償わせてください!」
柱の陰で見ていたハナミは、ほっとするのであった。
フリーメイドンとの戦いは、まだ始まったばかりだ。





オリジナルSS「メイドトレイター」3話

前回からだいぶ空いてしまいましたが、3話です。
今回は戦いはなし。ある意味、日常回。
それではどうぞー↓

前回のあらすじ
アリスはフリーメイドンの放った合成メイド怪人貫美メロ子を倒したが、その犠牲は大きかった。
自分を逃がしてくれたキリサキの死が、アリスに打倒フリーメイドンの思いを強く決意させるのだった。


キリサキは自衛隊の隊員だった。
アリスは、アリスの改造メイドの体を必要としているのが、自衛隊の研究機関のような所だろうと考えた。
しかし連絡を取ろうにも、アリスには自衛隊の知り合いなんていない。
キリサキに託されたIDカードだけが頼りだが、果たしてこんなカード一枚で相手にしてくれるだろうか。
不安が残るものの、今のアリスには他に選択肢がなかった。
人目につかぬように注意を払いつつ、自衛隊の基地に向かった。
徒歩で距離はあったものの、幸いに市街地から離れていたため、目立つことなく到着できた。
アリスが物々しい入り口を前に立つと、守衛をしているガタイのイイおじさんに奇異の視線で睨まれる。
アリスの姿はただでさえメイド服で目立つのに、戦いでぼろぼろの血だらけだ。
一見して、あまりにも怪しすぎる。
それでもアリスは、IDカードを見せればきっとわかってくれる、と信じていた。
「すいません、ちょっといいですか」
「……なんだ、おまえは。ここは一般人用の入り口ではない。一般人は手続きを踏んだ上、来客用の入り口から入れ」
「えっと、関係者かわからないのですけど、これを見てください」
「ほう……?」
おじさんはアリスからIDカードを受け取ると、少し待っていろ、と言って奥へ消えた。
しばらくして、おじさんは慌てた様子で戻ってきた。
よし、と内心でガッツポーズを決めたアリスだったが、その期待は裏切られた。
「こ、こんなIDカードつかえんっ!」
おじさんは思い切りカードを投げつけた。
「ちょっと、なんなんですか!」
「うるせぇ!こんな奴、うちにはいないんだよ!そんなカード、まさか偽造じゃないだろうな?!」
「なんてこと言うんですか!キリサキさんはみなさんのために、みなさんのために……!
そ、それに、あの時迎えに来たヘリだって、自衛隊のものだったはずですよ!!」
アリスの愛くるしいハイトーンボイスは、おじさんの怒号に負けていなかった。
おじさんはどこか申し訳ないような顔をしているように見えた。
それでも、態度は変わらなかった。
「ヘリだって……?あ、いやいや、知らん!うちのヘリが出動した記録なんてない!」
「そんな、嘘です!どうして、そんな嘘をつくのですか!」
「う、うるさい!知らないものは知らないんだ!だいたい、おまえは何者なんだ、そんな格好で!」
「ボ、ボクはその、えっと………」
「ふん、昼間っから変な格好しおって!いいから、さっさとどこかへ行け!ここには二度と来るな!」
「ひどい……!わ、わかりました!もう、あなた達を頼りません!」
アリスはあまりの仕打ちに腹をたててしまう。
キリサキのIDカードを拾い、大事にしまうと、とぼとぼと基地を後にした。
「……すまん、キリサキ。こうするしかなかったんだ。こうするしか……!」
おじさんは膝をつき、アスファルトを殴った。



「いやあああ、やめて、やめてくださいませ!どうかお許しをっ!!」
一人のメイドが、数名のメイドによって羽交い締めにされ、連れて行かれる。
「暴れないでくださいねー」
「しっかり反省してくださいねー」
連れて行くメイドは、蔑むような目つきで泣きわめくメイドを見つめる。
「ひい、首領様、どうかお慈悲を、首領様、首領様ぁ!」
叫びもむなしく、彼女は『再教育』と書かれた部屋へ連れて行かれた。
扉が閉まってしばらく後、聞くに耐えない悲鳴が響きわたる。
「いだ、いだぁぁぁあぃいいい、反省します、反省しましだああ、だ、だから、許してえぇぇえ!!
ひぎいぃ、誓います、忠誠を誓いますから!身も心もぉお、フリーメイドンのものですぅう!
ぎゃああ!いだぃいいいいぃ!!フリーメイドン万歳!フリーメイドン万歳ぃぃぃ!!!」

悲鳴を聞いた首領は、隣にいたメイド長にワインをついでもらい、一口含む。
「メイドの忠誠心が高まる叫びは、いつ聞いても甘美なものだ」
「まったく、最近の改造メイドは忠誠心が足りません。私ほどになれば、教育部屋など、一日中身も心も喜んでいられますのに」
「それでメイド長、自衛隊への圧力は済んでいるな?」
「ハッ、抜かりありません。これでストロベリーメイドは行き場を失うことでしょう」
「クク、ご苦労だった。だが、奴が脅威であることは変わりない。メロンメイドが破れた時のあの力、侮るべきではない。
……よし!フリーメイドン四天王を呼べ!」
「し、四天王を、でございますか!?」
「そうだ、世界各地の支部にいるだろう。奴らを呼び戻せ!」
「ハッ!かしこまりました!」


アリスはキリサキの最後の言葉を思い出していた。
キリサキはIDカードの裏にメモがあると言っていた。
裏には、とある喫茶店の住所が書かれていた。
アリスは少ない情報を頼りに、喫茶店を探し当てた。
「喫茶店、赤リンゴ……」
通りから外れたそこは、あまり流行ってない雰囲気の喫茶店であった。
どちらかと言えば、スナックのような空気すら感じる。
アリス「(ここにいったい、何があるのかな。)」
疑問の答えを見つけるには、扉を開けるしかない。
アリスは覚悟を決めて、喫茶店の扉を開けた。
カランと、アンティークなドアベルが来客を知らせる。
すると、カウンターに突っ伏していた女性が顔を上げた。
店には他に人はおらず、きっと彼女がここのマスターなのだろう。
彼女は自衛隊のおじさんの時と同じような奇異の視線をアリスに向けた。
「あの、こ、こんにちは」
「あ、う、いらっしゃいませ……?」
アリスが近づくと、彼女は目をぱちくりさせた。
ぼろぼろのメイド服を着た女の子が入ってきたのだから、驚くのも無理はない。
だが、アリスもまた驚いていた。
喫茶店のマスターは、どこか見覚えのある顔だったからだ。
「すいません、キリサキさんにここを頼ってくれと言われて……」
「キリサキに……?」
彼女の表情が変わった。
「あの、これをみてください!」
アリスはIDカードを差し出した。
それを見た彼女は、ぽたぽたと涙を流した。
「そうか……こいつがあるってことは、あの子はもう、いないんだね……」
「なんて言っていいかわかりませんが、キリサキさんは最後まで、立派な方でした……」
「あの子ったら、さすがだね。
それにしても、あんた何者だい。そんなぼろぼろのメイド服を着てさ。
とりあえず自己紹介しようか。あたしは霧島花観。キリサキ……霧島咲弥の姉だよ」
「ボクは栃乙女アリスです。よろしくお願いします、ハナミさん」
「とち……?なんか珍しい名前だね。おいしそうだよ」
「本名では、ないんですけれど。それはボクがどうしてこんな格好をしているのかと関係があります。
まず、ボクは元々男で――」


一通り説明を終えると、ハナミは神妙な面持ちでため息をついた。
「……つまり、そのフリーメイドンって組織を倒さないと、日本中、いや、世界中の人間がメイドさんに改造されてしまうってわけか」
アリスは無言で頷いた。
「なるほどねぇ。さっちゃんたら、また一人で背負い込んでたんだなぁ」
「さっちゃん?」
「ああ、キリサキのこと。あたしはさっちゃんて呼んでいて、逆にあたしは「はなねぇ」って呼ばれていたよ。
ちなみに、キリサキは周りから言われていたあだ名。ほら、霧島咲弥だから。あたしはキリバナって呼ばれていたよ。
なんなら、キリバナさんって呼んでくれてもいいよ」
「いえ、ハナミさんって呼ばせてください」
「あいよ。ならあたしはあんたのことアリスって呼ぶから」
「わかりました。……あの、ハナミさんは自衛隊の隊員、というわけではないのですね」
「そうさ。見ての通り、あたしはしがない喫茶店のマスターさ。
優秀な妹と違って、こんなことしかできないのさ。
でも、何か自分の店を持つってのが将来の夢だったから、一応成功かな。売り上げは聞かないでほしいけどね」
「へぇ、素敵ですね」
「ありがと。さて、難しい話はまた後でするとしてさ。
アリス!あんたお風呂に入りなさい!」
「ほょっ!?お、お風呂ですか!?」
「とーぜんでしょ。いつまでもそんなぼろぼろの血みどろでいて、いいわけないでしょ。
ほら、この店って奥があたしの住まいになっているからさ。まっすぐ行って突き当たりの左が風呂場だよ。
湯船にお湯は張ってないけど、シャワーは出るから、今すぐ体を洗いなさい!」
ハナミが腰に手をあて、反対の手で店の奥を指さす。
これだけ強く言っているのに、アリスは億劫がる。
「でも、お風呂ってその、ぬ、脱ぐん、ですよね?」
「はぁ?当たり前だろ」
アリスは赤面して俯くと、スカートの裾思い切り掴む。
「だ、だって、その、脱いだら、その、えっと、か、体が、見えちゃいます、よね?」
「当たり前だろ」
ハナミはアリスの気持ちが理解できず、眉をしかめ、首を傾げてしまう。
「だから、その、ボク、男なんですってば!」
「いや、女だろ……って、あ、あー、はいはい、なるほど」
ハナミは何か汚いものを見るような目つきに変わる。
「アリスくんって、スケベだねぇ」
「え、ちょ、ハナミさん!?」
「これは相当なむっつりに違いないな」
「なんでそうなるんですかぁ!?」
「もしかして見慣れてないのかな?女の子の体」
「い、妹のでよく見ていましたけど……。って、そうじゃなくて!ボク、スケベじゃありません!
いいです、その証拠に、全裸だろうがなんだろうが、なってやりますっ!」
アリスはいったい、何にムキになっているのか。
わざとらしく力強い足取りで、風呂場へと直行していった。
その姿に、ハナミは自然と微笑んでしまう。
「やれやれ、少しからかいすぎたかな。
でも、あれだけ明るくなれるなら、大丈夫だろうね。
さっきまで、半ベソかきながら話をしていたのに。
せめて、あの子の力になってあげられればいいんだけど。ねぇ、さっちゃん……」
ハナミの握ったIDカードに、ポタリと滴が落ちた。



「(ボクは異次元にいた。何もない、歪んだ空間。波打つ地平線。
上下の無い感覚。どこか水面を漂うような、なのにどこまで落ちていける感覚。ボクは今、異次元にいた……)」
アリスは目を閉じ、精神を異なる空間に旅立たせた。
そうでなければ、全身に走る感覚に、心を支配されてしまう。
アリスはカチューシャをとると、メイド服を脱ぎ捨てた。靴下も問題なく脱げた。
あとは、下着だけだった。
両手の親指を薄いショーツの両端へ通した。
「(ボクは異次元、ボクは異次元、ボクハイジゲン)」
アリスの息が荒くなる。意識するなと言われても、無理だった。
改造メイドは普通の人間より五感が強化されている。全身の触感はより敏感になり、かすかに触れるだけでも強く感じてしまう。
「(ボクは……ボクは…………ボクは……………)」
アリスの紅潮した体から、湯気が立った。
アリスのショーツを握る手が震えた。
「(ボクは………ボクは、スケベじゃなあぁあああああいっ!!!)」
アリスはカッと目を見開いた。
素早くショーツを足から抜き払い、ブラジャーも手早くホックを外した。
「はぁ、はぁ……よしっ!」
アリスはふっきれた。
さっきまでは、女の体の感覚と、慣れない衣装の感覚が相乗効果となって、アリスのアイデンティティをことごとく痛めつけていた。
だがアリスは、男としてのプライドを捨て、感覚を受け入れることで痛みを克服した。
それは、アリスが女としての一歩を歩んだ瞬間でもあった。
「あははは!ボク、スケベじゃないからパンティーはいちゃうし、ブラジャーつけちゃうもーん!!」
アリスはかつての自分を押し殺すように声をあげた。
宣言することによって、自分が女の体になったことをしっかり受け止め、認めてあげるために。
自分だけの、たった一つの体を。



アリスはシャワーを浴びると、心地よさに心理的な安心感も得ていた。
ここに辿り着くまでにあった、辛い現実を洗い流しているかのようだった。
それでも、体そのものは変わらない。
むしろ綺麗になればなるほど、その女性的な柔らかい肉体が際立っていく。
アリスはそれまで感じていた恥ずかしさを抱くよりも、ショックの方が大きかった。
もう、この体で生きていくしかない――――。
変え難い事実は耐えがたい。
受け入れたいと思っているのに、心のどこかで反発している。
その理由を、アリスは理解できないでいた。
きっと、慣れないせいだろう。もっと、この体を好きにならなくては。
そう考えて、気持ちを押し込めるのだった。
「おーいアリスぅー!ここの制服で悪いけど、着替え置いといたから!」
「あ、はい!ありがとうございます!」
アリスはシャワーを止めると、風呂から上がる。
バスタオルを取ると、長い髪をくしゃくしゃにしながら拭いていく。
「(こ、これがハナミさんの用意した服……!?)」
アリスは瞠目する。
そしてその服が意味することは、この喫茶店がただの喫茶店ではないということだ。
アリスはいそいそと着替えた。

アリスは店の奥から慌ただしく現れる。
「ちょ、ちょっとハナミさん!なんですかこの制服!」
登場したアリスの全身は輝きを放ち、シャボンのような淡い背景空間を纏うとともに、なめらかなハープの音が聞こえた。
「何って、メイド服だけど?」
「だだだ、だってこのメイド服、スカート短すぎっ!
ボク、膝下じゃなきゃ認めません!」
アリスは必死にスカートの裾を引っ張っていた。そうしても、今にもスカートの中身が見えてしまいそうだった。
瞳を潤ませるアリスに、ハナミは溜息をついた。
「そんなにイヤなら着なければいいじゃないか」
「それは、その……改造メイドの宿命か、メイド服を着てないと落ち着かないからというか……」
言い訳するアリスに、ハナミは無感情に言い放つ。
「着てみたかったんだろ?」
「ち、ちがっ、こんなえっちぃメイド服、ボクは認めないっ!」
「全否定しちゃうのに着るんだ?」
「ほ、他に着るのがなかったし、それにハナミさんのご厚意を無駄にはできないし、その……」
「ふーん。むしろさ、露骨にイヤイヤ着られる方がご厚意を足蹴にされている気分なんだけどなぁ」
「ち、違います!イヤイヤなんかじゃありません!」
「じゃ、着たくて着たんだな?」
「う、うぅ、そ、それはぁ……」
「正直に答えなさい」
「……はい。とってもかわいいメイド服だったので、着たくてたまらなかったです……」
「……よろしい!
さて、そんじゃアリス君には、うちで働いてもらいたいんだけど、お願いできるかな」
ハナミはにんまりと微笑んだ。
「あんた、行くとこないんだろ。ここの奥、部屋一つ空いてるから、そこ使いなって。
悪い話じゃないと思うんだけど、どうだい?」
「本当ですか!?それは願ったり叶ったりです!でも……」
アリスは目を逸らした。
「ボクはフリーメイドンと戦います。その戦いに、ハナミさんを巻き込むわけにはいきません」
ハナミは、ぽん、とアリスの頭に手を置いた。
「なぁに言ってんだよ。あたしだってね、さっちゃんのことで腸が煮えくりかえりそうなんだ。
あたしには直接戦う力はないけれど、アリス君をサポートすることで、戦う手伝いはしたい。
そんな思いなんだ」
「ハナミさん……」
アリスは嬉しかった。
自分ひとりだけが戦っているわけではないという事実が、嬉しかった。
こうして、アリスは『メイド喫茶赤リンゴ』の店員として表向き暮らすこととなったのだった。

Almightでスマホ用ノベルゲーム作成「21回目:actionでメッセージ表示を切り替えるタイミングについて」

さて久々のAlmight講座です。
本当は一章分のデータをちゃちゃっと公開したかったのですが、制作上気づいた点やなどを紹介したいと思います。

今回はメッセージウィンドウの表示タイミングについてです。

みなさんはノベルゲームをプレイした時、メッセージウィンドウの扱いについて、2種類見たことがあると思います。
(ない人は、そういうのもあると思ってください)
1つは、背景の変化するさい、あるいは立ち絵の表示切替のさいに逐一消えるものです。
仮にAパターンとします。
一例はこんな感じです。
henka3.jpg
背景表示中

henka2.jpg
表示後、メッセージウィンドウを表示中

というように、二段階踏んで表示する形。
ミステリー系とか、比較的テキストベースのリアル志向のノベルゲーで見る形式かと思います。
これは特に背景が切り替わる時の見栄えがよくなりますね。
視点が主人公だと、移動シーンがすんなり受け入れやすいかな。

Almightではこう書けば簡単に実現できます。

[hide_msg]
[show_bg file="kinoue.jpg"]
[action time = 2000]
[show_msg]
[action]

actionが2回出てきます。
単純と言えば単純ですが、それぞれの表示のさせ方を変化させられるという特徴もあります。

そして2つ目が背景を変える際にメッセージを残す形式。
見た目はこんな感じです。仮にBパターンとします。
henka1.jpg

ヴィジュアルアドベンチャーとか、画面枠のあるゲームなんかはこの形式をよく見かけます。
システム上、携帯ゲーム(携帯電話のゲームに非ず)ではこのパターンは非常に多いです。
画面内にメッセージウィンドウ枠分のスペースをとっているゲームもこれですね。

例文は当然、メッセージを表示させた状態で背景を変えるだけです。
[show_msg]
[action]
……
[show_bg file="kinoue.jpg"]
[action time = 2000]

メッセージを表示させたまま背景を変えるだけです。


さて、実のところ、今までの経験からふたつは作品中に介在してもよいものに感じます。
統一感はなくなりますが、ちょっとだけ凝った作りにできるかなぁ、なんて。
それぞれは以下のような特徴があると分析します。
・Aパターン
時間が経過した。
遠くの場所へ移動した。
視点が切り替わった。
心理状態の大きな変化。
・Bパターン
素早い移動。
キャラクターが振り向いた。
まばたき。
心理的に間を置かない移動。
近い場所への移動。

といろいろ感じられます。
SADAMEではこれらのシーンをそれぞれの演出で表現できたらなぁ、なんて野望を抱きます。
もちろん全部が全部そうやって表現する必要はないのですが、あくまで作者として感じる表現でやっていこうかと思います。
今回紹介した内容は、必ずしもすべてに当てはまるわけではありませんが、
それぞれ表示させたときに感じたので、今回紹介しました。

さて、次回は一章を公開するために、Almightにソフトを入れるための手順を書きたいと思います。
Almigihtというより、ホームページ作りみたいな内容になるかと。
ではでは、また。

オリジナルSS「メイドトレイター」2話

さて、少し間が空いてしまいましたが、オリジナルSSメイドトレイター2話です。一気に盛り上がります。
とりあえずようやく戦闘シーンありますので、その迫力をご覧くださいませ。

↓↓以下SS↓↓

前回のあらすじ
謎のスパイ『キリサキ』と共にフリーメイドンの秘密基地を脱出した栃乙女アリス。
通気ダクトを抜けた先は、どこともわからぬ森の中だった。無事に外へ出られたかに見えたが……!?

「なんだか、静かですね」
アリスはぽつりと呟いた。風がないせいか、木々の葉のこすれる音も無い。野生動物の鳴き声もしない。
せいぜい、自分たちが踏み倒す草むらの葉音がするだけだ。
あまりの無音に、ひどく不安になってしまう。
キリサキはアリスに微笑みかけた。
「大丈夫、方向はわかっている。このままうまく脱出してみせるさ」
アリスは深呼吸をすると、はい、と答えた。
さっさと歩くキリサキの背中が、とても頼もしく見えたのだった。



「首領様、ご報告します」
「どうした、メイド長?」
「栃乙女アリス、及び裏切り者であるスパイ、キリサキの居場所がわかりました」
「ほう、やっと見つけたか」
「どうやら通気ダクトを通り、地上のエリア208を基地の敷地外に向かって進行中です」
「なるほど。その辺りならば、我々が先回り可能だな。
しかし、我々の洗脳手術を施した者がなぜ裏切ったのか、不思議だ」
「どうやら、改造担当のメイドに不手際があったようです。キリサキは体も改造されず、我々の一般メイド服を着て潜りこんでいたようです。
このような事態をまねき、大変申し訳ございません」
報告したメイド長は深々と頭を下げた。
「面をあげい。改造担当メイドを『再教育部屋』へ連れて行け」
「さ、『再教育部屋』でございますか」
それまで表情ひとつ変えなかったメイド長が、目を丸くした。
フリーメイドンのメイド達にとって、『再教育部屋』はそれほどに恐ろしい場所なのだ
「そうだ。二度、言わすでない」
「ハハッ!かしこまりました!」
「それから栃乙女アリス達だが……訓練させていたプロトタイプがいたであろう。奴を向かわせろ」
「よろしいのですか。力の差がありすぎます。万が一の場合、貴重なストロベリーメイドを殺してしまうことに……」
「かまわん。奴には作戦プランCを伝えておけ。
もしストロベリーメイドが倒れるのであれば、所詮その程度だった、ということだ。
さぁ、奴を向かわせろ!」
「ハッ!ただちに!」



「よし、助けを呼べるポイントについた。レスキュー信号を送れば、すぐに助けが来る。もう安心だ」
「ありがとうございます。キリサキさんのおかげで、逃げることができました。
あの……キリサキさんは、本当に何者なんですか」
「……ここまで来られたんだ。そろそろ話してもいいだろう。
あたしは自衛隊特殊作戦群所属の隊員だ。
以前からフリーメイドンの活動を察知し、武力を持って制圧を試みた。
……だけど、惨敗だった。それほどに、フリーメイドンの改造メイドは強力だった。
だから、あたしはこうして内偵し、フリーメイドンの強さの秘密を探っていたというわけさ」
「……今の自衛隊の戦力でも、フリーメイドンには勝てないのですね」
キリサキは苦虫を潰したような顔になる。
「最初の小さい組織のうちに、絨毯爆撃とか毒ガスで殲滅できていればよかったさ。
でも、今の日本で、そんなことを大っぴらに実行できない。
あくまで歩兵による局所的な戦闘で、秘密裏に処理したいのが上の考えさ」
キリサキはため息をついた。
「相手の戦力を分析して、戦う手段を考えているうちに、フリーメイドンは世界中に支部を持つ大組織なった。
今となっては、奴らの改造メイド技術を盗むくらいしか、勝つ手だてがないのさ」
「それで、ボクに協力してほしいってわけだったのですね」
キリサキは静かに頷いた。
直後、森中に笑い声が響きわたる。
「キャハハハ!聞いちゃった、聞いちゃった!」
アリスもキリサキも、身構えて辺りを見回した。
だが、どこにも姿が見えない。
「へぇ~、そぉなのぉ~!こそこそ我々をかぎまわっていたのが、自衛隊のみなさんだったのねぇ~。
こぉ~んな大事なこと、首領様に報告しないわけにはいきませんねぇ~」
「くそっ、つけられていたのか!!?」
「くすっ。とぉーぜんでしょ~?フリーメイドンをなめちゃ、だ・め・よ?
さーって、まずは、邪魔なハエをたたき落とさなきゃねぇ」
アリスは言葉の意味が分からないでいると、程なく答えがやってきた。
激しいプロペラ音とともに、自衛隊のヘリが頭上に現れる。
キリサキは叫んだ。
「まずい、来るなっ!!」
「えいっ♪」
次の瞬間、何か細いものが数本、ヘリへ向かって一直線に伸びた。
それはいとも簡単にヘリを串刺しにした。
あっという間にヘリはコントロールを失い、くるくると回りながら墜落した。
爆発とともに散らばる破片が、絶望となってアリス達に降り注いだ。
轟々と燃えさかるヘリの残骸を背に、キリサキの怒号がとぶ。
「どこにいるっ!?でてきやがれっ!!」
「うふふふ……」
どこかの木の枝が、がさっと動いた。
かと思うと、アリス達の前に、緑色のメイド服を着た改造メイドが着地した。
アリスは、そのメイド服に驚いた。フリーメイドンの一般メイド服とは、まるで違うデザインだからだ。
「気をつけろ、アリス!こいつは、あなたを生み出すために作られた、合成メイド怪人のプロトタイプよ!」
「あらん、お詳しいのねぇ~。さすが、今まで改造を免れてきたスパイさんだわ~。
それじゃ、メイドの土産ならぬ冥土の土産に、自己紹介してあ・げ・る♪」
彼女はそれまでのゆったりした表情から、きりりと力が入る。
「私はフリーメイドンの忠実なるメイドにして、メロンとの合成メイド怪人、貫美メロ子よ!」
言い放った合成メイド怪人・メロ子の言葉は、姿を見れば誰もが納得のいくものであった。
メロ子のメイド服は緑色だが、白い編み目模様の筋が入っている。
エプロンはメロン独特の白っぽい果肉のグラデーションに一致していた。
加えて、メロンと呼ぶに相応しい豊満な胸部に、アリスは元男だからであろうか、目が釘付けだった。
「でも、メロンと言えば夕張では……」
アリスの素朴な疑問に、サービス精神旺盛なメロ子は答える。
「あらん、残念でした~。わたしぃ、赤肉じゃなくて青肉系なのぉ。首領様の好みでぇ、そっちの有名な品種とあわせていただいたのぉ~!」
「な、なるほど……!」
「アリス、納得している場合じゃないぞ!」
身構えていたキリサキを見て、アリスははっとする。
「遅い!」
メロ子の両手がみるみる緑色になり、指が細長い蔓に変形する。
そのまま両腕を振りかぶると、蔓になった指が鞭のように襲いかかった。
「飛べっ!」
「うあぁ!!?」
二人は左右に飛ぶと、かろうじて鞭の固まりをよけた。
だが、まだ二人が飛んでいるさなかに、メロ子はニヤリと笑みを浮かべる。
「それで、かわしたつもり?」
メロ子は踊るようにして腕を振り回す。
すると地面に叩き付けられたはずの蔓が、複雑に跳ね回った!
アリスは目を見開くと、咄嗟に体を丸め、両腕を顔面
でクロスし、ガードする。
「う、あっ!ぐ、わっ、ああああっ!!!」
ところが無防備な背中を打たれてのけぞってしまい、かと思えば腹の一撃に体を丸くしてしまう。
蔓の衝撃は、まるで金属バットのフルスイングだ。
いくら防御に徹していたとはいえ、あらゆる角度から襲いかかる蔓を防ぐことはできず、かなりのダメージを受けてしまう。
ようやく着地したときには、全身に擦り傷を負い、メイド服はぼろぼろに破かれ、血に塗れていた。
片膝をつきながら、全身の痛みに耐える。
「う、ぐぐ……」
アリスは内股になりながらも、なんとか立ち上がる。
目に写ったのは、触手のようにうねる手をぺろぺろと
舐めるメロ子の姿だった。
メロ子は舌を口にしまうと、血の口紅で化粧をしたようになった。
「さすがぁ、合成メイド怪人ねぇん。普通の人間ならいまごろ死んでいるわよぉ~。
ほらほら、あっちの裏切りものなんかぁ、虫の息ですものぉ」
アリスはメロ子の指さした方に視線を向けた。
そこには、血塗れのままうつ伏せに倒れ、ぴくぴくと
痙攣するキリサキの姿あった。
「キ、キリサキさん!?」
「ふふ、すぐにあなたも、ああやって寝かせてあ・げ・る♪
でもぉ、そのまえに首領様の命令でやらなければならないことがあるの~♪」
すると、メロ子は触手と化した手を元に戻し、エプロンとスカートの間をごそごそとさぐると、スマホを取り出した。
メロ子はアリスへと近づきながら操作し、ちょうどアリスの目の前に来ると、スマホの画面が見えるように突き出す。
「これをご覧くださぁい」
「えっ……飛行機……?」
画面に映っているのは、空の快適な旅の真っ最中であろう、旅客機だった。
きょとんとするアリスに対し、メロ子は最高に意地の悪い笑みを浮かべた。
「たしかぁ、アリスちゃんの家族って海外旅行中なんですってねぇ~」
アリスは青ざめた。
「ちなみに、この『爆発』って文字が書いてあるでしょ~?これをタップするとね、と~っても綺麗な花火があがるんですってぇ~。
ねぇ、アリスちゃんも花火、みたいかしらぁん?」
「ひ、卑怯なっ!いったい、何が望みなんだ!」
「うふふ、理解が早くて助かるわぁ~。あのね、首領様の話では、アリスちゃんがフリーメイドンに忠誠を誓って、洗脳改造を受けてくれると、飛行機は無事に到着できるんですってぇ!」
「そ、そんな取引……!」
「あらん、そんな態度でいいのかしら~?『爆発』を押すかどうか、私の気分なんだけどぉ?」
「うぅ、ボクはどうすれば……!!」
アリスは拳を握りしめ、奥歯を噛みしめる。
すると、掠れた声でキリサキが必死に述べた。
「だ、だまされるな、アリス……!奴らが、そんな、約束、する、はずが……ぐ……いいか、フリーメイドンにとって、君の体を解析されるほうが、脅威なんだ……だから、それを阻止するためなら、奴らは……!」
「キリサキさん……」
「ふん、死に損ないがおしゃべりだこと。でも邪魔をするなら、さっさとトドメをさしちゃうんだから」
メロ子の片手が再び蔓になると、指一つ一つが、今度は鋭く長く、堅い針のようになる。
そのまま一気にキリサキへ指を延ばす。
キリサキは四肢を貫かれ、体を持ち上げられた。
「ぐあああぁぁぁっ!!」
「さぁて、アリスちゃんへサービスしちゃうわぁ。
アリスちゃんがもう一度フリーメイドンに忠誠を誓えば、この子も助けてあげるわぁ。
それから、首領様はね、あなたの家族も洗脳しないと言っているわぁ~」
「ほ、本当!?」
アリスの心は揺らいだ。
キリサキさんを助けられるなら、家族を助けられるなら、それでいいかもしれない。
だけど、キリサキさんの言うように、自分の体がフリーメイドンを倒す切り札になるかもしれない。
自分の悲しみを回避するために、たくさんの人を悲しませていいものか。
悩むアリスに、キリサキはなんとか言葉を伝える。
「だ、だまされるな……!たとえフリーメイドンが、何もしなくとも、洗脳後の君は、家族に対して、どうすると思う……!?」
アリスは得心した。
フリーメイドンに改造されたメイドは、他人を自分と同じフリーメイドンの改造メイドにしてしまう。
たとえ家族であっても、一切の躊躇はない。
アリスは、フリーメイドンのやり方に恐怖を抱いた。
しかし、それ以上に怒りが込み上がる。
確かに、フリーメイドンの組織としては、今の約束を守るだろう。
だが、洗脳後のアリスは、嬉々として家族を洗脳してしまうに違いない。
「ボクを洗脳さえできれば、約束を守る気なんて、なかったんだな!」
「うふふふ……アハハハ!」
メロ子はひと笑いすると、肩を落とした。
「はぁ、もうこの茶番もおしまいなのねぇ。
それじゃ、価値のなくなった人質がどうなるか、ご覧くださ~い」
「な、ま、待てっ!」
メロ子は躊躇無く『爆発』をタップした。
画面に写っていた飛行機は、跡形もなく爆散した。
「あ、あ、ああああぁぁあっ!!!」
アリスは声にならない叫びをあげてしまう。
アリスの家族は今、死んだ。
父も、母も、妹も。
「さぁて、遅かれ早かれ、こうなるとは思っていたのよ」
メロ子はキリサキを思い切り投げ飛ばした。
「私ねぇ、プロトタイプってことで、あなたの前座みたいな立場だったの。
でもねぇ、首領様があなたを倒せば、合成メイド怪人1号として認めてくれるって仰ったわ。
私の気持ち、おわかり?」
メロ子はスマホを投げ捨てると、両手を針のように変形させる。
アリスは光を失った目で、転がるキリサキを見た。
もう、痛みに痙攣する様子もない。
アリスは転がるスマホを見た。
もう、何も写っていない。
目の前で、全てを失った。
「(どうして、こんなことに)」
アリスは疑問を浮かべるたびに、胸に悲しみが広がっていく。
どうして、どうして、どうして……。
広がった悲しみは、みるみる別の感情へと変換された。
それは――怒り。
フリーメイドンに対して、メロ子に対して向けた、底知れない、怒り。
俯いていたアリスが、全身に力を込める。
すると、体中から眩い光を放ち、激しい波動が周囲に放たれる。
草は放射線を描くように倒れ、木々は台風でも来たように騒ぐ。
「な、なによこの子!?」
思わず髪を押さえるメロ子が見たのは、黄金に輝くアリスだった。
「……許さない!」
アリスはメロ子を眼力でたじろがせた。
そのまま両手を胸の前に持って行くと、全身からあふれ出る波動をそこへ集中させた。
「なに、あれは、イチゴ……?」
集中した波動はイチゴの形となっていた。
アリスは体を屈めて振りかぶると、放った。
「ストロベリー……フラァァァァッシュ!」
地面をえぐり、大気を振るわせながら、イチゴの波動はメロ子に突撃した。
「ちょ、ちょっとなによこれ、なによこれぇえええ!!!?」
イチゴの波動はメロ子を飲み込むと、巨大な爆発を起こした。
しばらくして爆煙がおさまると、半球にえぐれた地面の中心に、メロ子が立っていた。
アリス以上にぼろぼろの姿で、最後の力で立っていた。
メロ子はアリスを睨むが、次の瞬間、体が内側からボコボコと膨らんだ。
よく見ると、血管が破裂しそうなほどに膨らんでいる。
「ちく、しょう……ふ、フリーメイドン……ばんざぁぁい!」
メロ子は天を仰いだ直後、倒れ、体が爆発した。
それを確認したアリスは、ぺたんと鳶座りになる。
自分の手を見て、自分が何をやったのか何度も反芻し、理解しようとした。
「(今、必殺技が自然と浮かんだ。そして、ボクは必殺技でメロ子を…………)」
アリスは頭をふって考え直した。
アレは人間ではない。フリーメイドンの改造メイドだ。人類の敵だ。そう思いこむことで、深く考えないようにした。
アリスはキリサキの元へ駆け寄った。
キリサキは既に、目も半開きにしか開かず、ぴくりとも動かない。アリスが抱き上げた体は、とても冷たかった。
「キリサキさん…………」
アリスの目から、すぅーっと涙が流れた。
怒りで押し殺していた悲しみが、一気に解放されていった。
「う、アリ、ス……」
「キ、キリサキさん!大丈夫ですか、キリサキさん!」
「さす、がだな、あんた、さいこう、だぜ……。
あた、しは、もう、だ、めだ……」
「いやだ、いやだよぉ!ボク、自分一人じゃどうしていいか、わかんないよぉ!」
「へ、だい、じょぶ、あんた、やれる、もっと、自信、もて……こ、これを……」
キリサキは最後の力を振り絞り、懐からカードを取り出した。
それは、『霧島咲弥』と書かれた顔写真付きIDカードだった。
「もし、なにか、あったら、裏に、メモ……が……あと…………たの……だ」
キリサキは目を閉じ、うなだれた。
「キリサキさん……!?キリサキさん!キリサキさんっ!キリサキさァァァんッ!!」


朝日の強い光は、夜通しのアリスには少しきつかった。
それでも、崖の上から見下ろす世界と、そこから上る太陽のフレームは絶景であった。
「(ここを選んでよかった。そうだよね、キリサキさん)」
アリスは朝日に照らされた、十字の木の枝に微笑んだ。
再び目に涙がたまり始めるのは、眩しいからではない。
「ありがとう、キリサキさん。ボク、かならずフリーメイドンの野望を阻止してみせるよ。
フリーメイドンを倒したその時は、必ずまたここに来る。だからそれまで、ゆっくり寝ていて。
本当に、ありがとう。そこでボクのこと、見守っていてね」
アリスは昇る朝日をバックに、この場を旅だった。
フリーメイドンの合成メイド怪人、ストロベリーメイド、栃乙女アリス。
彼女の孤独な戦いが今、始まった――。
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